2010年6月23日水曜日

第4世代の応用地質

 今日、私が書いた論文のに対してメールで質問を下さった方がいました。また、このブログも読んでくださっているとのこと。文面から察するに、私より一回りちょっと若い方ですが、斜面への素直で確かな観察眼のある方だとお見受けしました。ご自身の研究テーマに関しても

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私も河床の遷急点や斜面の遷急線に着目して,地すべりの発生場の特徴を地形発達史の観点から明らかにしようと研究をおこなっておりますが,その中で年代の軸を入れるということ,遷急点や遷急線の形成年代がいつなのかを明らかにすることが非常に大きな課題になっています.
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と、現在の地形学の課題に対して正面から向き合っておられることがわかります。このような方に、ブログを読んでいただいているとわかると光栄であるとともに、下手なことは書けんなあという責任感さえ感じてしまいます。

そして、このテーマは私の研究テーマでもあります。段丘を区分するように斜面の区分が出来たらどんなにか楽でしょう。

平野昌繁(1983):空中写真で見る崩壊災害とその予知のための問題点 : とくに初生的大規模崩壊の地質構造規制について,自然災害科学 Vol.2 №1 pp.19-25

は、論文の締めとして、

空中写真上で判読可能な地質構造に対応して生じた地表形態(組織地形)ならびに、地殻表層物質の運動に伴って形成された地表形態(広義の変動地形)に関する洞察力(いわば、地形学的センス)を養うことが肝要であろう

と述べています。まさに、我が意を得たりです。最近はレーザー計測により大変高精度な地形情報が得られるようにはなりましたが、往々にして木を見て(もっと言えば葉脈を見て)森を見ずになったり、コンターの精度と裏腹に除去された植生に実は斜面の動きを見る意識が薄くなったりしている間も否めません。斜面にこだわるあまり、その斜面が貝塚(1983)の段丘形成モデルにおいてどのような流域環境にあったのか、現在はもとより最終氷期の海面までの想像力も必要になってきます。

メールを下さった方の師匠は京都大学の千木良先生だと聞きました。千木良先生といえば、その著書で『社会で使える第3世代の応用地質学』という表現を用いておられます。千木良先生が第3世代なら、私たち(若く見られたいので失礼ながらメールを下さったかたと私までをひっくるめて)は、第4世代です。代々受け継がれてきた地形を見るセンスを受け継ぎながら、社会に貢献するところまでは第3世代で大分活発になってきていると思います。

しかし、この社会貢献は”事業ベース”です。ややもすすと仕分けられるかもしれません。私たちが第4世代というためには、地学を国民的関心事にする方向に持っていき、事業から産業への転換が必要なのだろうと思います。そのためには、メールを下さった方のように、しっかりとした基礎研究に裏打ちされた底力を忘れてはならないと思います。先ほど紹介した、平野(1983)がCINIIからPDFでダウンロードできる時代です(ちなみに、私はこの論文の図ー3で斜面発達史の見方に開眼しました)。情報革命によって、第1~3世代の技術に触れることが容易になってきています。今年、第四紀の定義も変わったことですし、新しく激しい世代を作っていきたいものです。

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