2010年9月30日木曜日

締まらないうちに、、

 神奈川県北部で(私の感覚からすれば”それなりの”)豪雨があり、またまた土砂が流出しました。通行止めになっている道路に流出した土砂をみていると、宝永スコリアでした。記事には”土砂が締まらないうちに、という言葉がありましたが、地質学的に言えば数百万年たってもまだ”しまりのない軟岩”なのです。このあたりにも時間スケールのギャップを感じました。

2010年9月29日水曜日

緊急地震速報発令

 今日の夕方ごろ、突然社内に私と社長の携帯電話から大音量かつ救急サイレンのような音が鳴り響きました。周囲は一瞬騒然とし、会社の入るマンションに何かあったのかという怪訝そうな表情を浮かべました。携帯をみてみたら、今日福島県に2度の有感地震があり、それぞれ震度3と4、このうち震度4を記録した方の地震に対する緊急地震速報でした。会社のある川崎はピクリともしなかったので、みな一様に”なんで地震速報なの?”っと、、、
 たしかに、携帯電話の着信に強震動の範囲を推定してある程度の規模より大きいもののみ着信する、などどいう既往があればよいのかもしれませんが、でも携帯電話を買って初めて鳴ったので、確かに当事者だったら一時の避難にとても役立つかもしれません。

2010年9月28日火曜日

横浜ベイスターズ90敗から確率論を思う

 別に横浜ファンというわけではないのですが、神奈川新聞をとり辛辣な記事を読むにつけ、気にはなってしまいます。最近は地質や地盤工学の分野でもリスクマネジメントが叫ばれ、確率論の理解が不可欠になってきますが、最初に確率を学び始めたのが野球だったのものですから、野球で”すごい”数字がでると気になるわけです。イチロー選手の200本安打はやりたくてやってることですが、こちらはやろっと思ってやったわけではないという意味で、破られる確率は低いのかも知れません。

 以下のサイトに、打率傑出度という指標があります。
 http://www16.plala.or.jp/dousaku/daritu.html

 こういうのを応用して、豪雨が果たして頻発しているのかどうか、確かめられないでしょうか。

2010年9月27日月曜日

「悪人」を見てきました

 映画「悪人」をみてきました。故郷の言葉がノスタルジックでした。まだ見ていない人も多いかもしれないので、詳しい紹介は避けますが、印象的な、そして映画のクライマックスである灯台のシーン、、、見事な砂岩泥岩露頭、、あっ、、映画館で地質を思い浮かべてしまった、、感動のツボは全然違うところにあると知りながら、、隣には素直に感動している妻がいる、、、ああ、ここで解説などしてしまったら、感動を壊した”悪人”になるんやろうねえ。。。。

2010年9月26日日曜日

宝永の大噴火のすごさ

やっとではありますが、9月8日の神奈川県北部豪雨の調査速報をまとめました。

http://www.kankyo-c.com/Recent_investigation/20100908_tanzawa.pdf

あたらめて思い返してみると、流出土砂のほとんどが富士山宝永大噴火時の降下スコリアであること。いかに富士山が近いところにあるとはいえ、斜面に1mの層をつくり、未だに残っていることは迫力があります。これで驚いているようでは、AT、Aso-4を降下させたスパーボルケイノはどんなんだということにもなりますけれど、、

2010年9月25日土曜日

ちょっと一息

土壌汚染対策法ガイドラインを購入して読んで、いあや、悪戦苦闘中です。まあ、分厚くて読みにくいことこの上ない。そのせいではありませんが、風邪気味なので寝ます

2010年9月24日金曜日

地学はレアメタル?

今日は深田地質研究所の談話会に参加しておりました。

http://www.fgi.or.jp/FGIhomepage/index-j.html
 1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」で、「多くの資源が持続可能な限界を超えてしまっている」と指摘しました。その中で、クロムやコバルトなどのレアメタルについては、当時の事情から、比較的持続可能という判断をしていました。しかし、それからほぼ40年経過した今、レアメタルの需要が急増し、我が国にとってその確保が大きな問題となっています。今回は、レアメタルを中心とした鉱物資源の動向と、鉱物資源について大きな役割を担っている(独)石油天然ガス・金属鉱物資源機構の事業展開について、紹介したいと思います。

 ローマクラブの予測が当たっていれば、今頃金も銀も錫も枯渇しているはずだ、という話から始まりましたが、時期が時期だけに講演はナーバスでした。 そのあとの飲み会で、こんなんでは若者が地学・地質学を志さないねえ、まさにレアメタル的存在だ、、と、、資源開発は地質学の根源的なテーマでもあるが、実は宅地診断など暮らしに密着した仕事を着実に行うことも重要な一歩なのだという話にもなりました。どっちにしても言い古されてきたことではありますけれど、、、

2010年9月23日木曜日

事業仕分けがこんなところにも

牛山先生のブログにショッキングな記事がありました。

防災メール(含掲示板付)は無駄なのか
http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2010/09/post-7805.html
筆者は,防災メールや防災掲示板など,「IT系技術を使えば災害時に情報を双方向でやりとりして,こんなことまでできちゃうっっっ」的な「技術開発」「提言」に,一般論としては懐疑的です.ただし,防災メール等が全く無駄なものではなく,その機能を発揮しうる場面も大いにあるとも確信しています.

ちょっとYAHOO NEWSのリンクが切れてしまいましたが、新しい技術開発を伴うものはやめなくてもいいと思います。

2010年9月22日水曜日

現場の季節とはいえ

 本当に昔の人はよく言ったもので、「暑さも寒さも彼岸まで」、見事にそうなりそうです。そして、現場の季節です。三重に島根に東北に群馬に、まさに東奔西走です。近畿トライアングルや国引き伝説の地、第三紀層地すべり地帯に三波川・御荷鉾の地と一ヶ月近くで、本当なら日本の地質構造をめぐるたびになりそうなんですが、地質調査のように個人の考えに差があることを否定する業務の出張ですから、いかに”遊ぶ”か悩ましいところです。

2010年9月21日火曜日

1%

 今日は日本材料学会、地盤工学会が共催した講習会に行ってきました。

http://www.jsms.jp/index_4.html
「実務者のための戸建住宅の地盤改良・補強工法 -考え方から適用まで-」講習会

 最後の諏訪先生の話はちょっと衝撃でした。
 「一級建築士のうち、構造がわかる人が10%、そのうち地盤の成り立ちまで考えられる人が約10%、つまり1%です。土質及び基礎の技術士がもっとでていかないかんのです」諏訪先生は「諏訪技術士事務所」を開設しておられますが、裁判案件も多数手がけておられ、弁護士に頼りすぎるな、ということもおっしゃってました。頼られるようになるには、”なっかあったら現場に直行すること”とのことでした。

2010年9月20日月曜日

シンプルクリコン

シンプル携帯なんてのがありましたが、実にシンプルなクリノコンパスがあるのを知りました。サイズは丁度10cmなので、スケールとしてもちょうどいい。コンパスもオイルが入れてあってぐるぐる回らないし、スケルトンなので見通し角もよい。ちょっとした踏査にはよさそうです。

2010年9月19日日曜日

環境地質学の活躍の場

奥村他(2007)地学雑誌116(6)pp.894

地質学を学ぶと岩石、炭素、海洋など、循環系の自然観を養うことができます。例えば、上図のように、地殻表層部はマグマが冷却固結して火成岩が生成されるところから始まり、岩石中に含まれる元素の循環は、風化作用、水の運搬・堆積作用→続成作用→堆積岩の形成といった現象です。

冒頭の図が掲載された論文は、地学雑誌の「小特集 土壌汚染-環境問題への地質学の役割」において、その当時自然由来の土壌汚染に対しては法の適用外であることを批判的に指摘していました。しかし、奥村他(2007)が指摘しているように、人類が生活する地殻表層部のあらゆる部分で重金属の濃集・化学的形態変化が起きうるわけです。

また、なにかが汚染されないと、循環する自然観を養うことができないわけではありません。最近話題の深層崩壊も、例えば四万十帯の岩石の形成→隆起→河川の下刻→重力変形による緩み・岩盤クリープ→崩壊→扇状地・氾濫平野の形成→海への土砂排出→続成作用→やがては堆積岩へ、、という循環です。最近の化石燃料の消費によって急増したかどうかは、このような自然観を持っていれば自ずとわかることです。自然にとってみれば淡々とした業ですが、人間生活にしてみれば確かに十津川災害のように故郷を遠く離れるほど劇的ではありますが、、、、

今年、土壌汚染対策法が改正され、自然由来の汚染も法の対象となりました。環境地質学的視点を持った技術者が活躍すべき場と思われます。そして、こういった自然観を持ちつつ、暮らしに密着したリスクの扱い方が問われるのが、地質リスクマネジメントだと思います。どうも今の地質リスクの議論は”なんぼ安くできるか”という”事業目線”が強すぎるような気がしてなりません。

2010年9月18日土曜日

斜面と森林の管理

9月8日に神奈川県と静岡県との県境付近で発生した豪雨災害の調査に行ってました。ダム湖に大量の土砂と流木が流れていました。昨年の佐用災害でも問題になりましたが、土砂災害というようりは流木災害です。流出した土砂は主体で、10cm以上の巨礫はほとんどありません。

人命が失われなかったので調査機関が動いていませんが、特定の流域では、昭和47年7月(アメダス観測所の設置以前です)のいわゆる七夕豪雨以来の崩壊が発生しているかも知れません。

崩壊深は1.0m以下で、まさに植林の根系だけがごっそり持っていかれたようです。40~50年生のスギ・ヒノキが家屋を破壊している箇所もあります。土砂流~掃流、流木災害です。発生する可能性はどこからでもあります。改めて斜面と植生のリスク管理のあり方が問われそうです。

2010年9月17日金曜日

Bookwayで自費出版でもしてみるか

以前住宅雑誌で連載記事を書いていたのですが、どうも出版となると費用面での折り合いがあわず、現在頓挫中です。アウトリーチすべきとは、このブログでも良く書いてますが、一般の方は専門誌よりも本を書いている方がインパクトと信頼があると思われます。

https://bookway.jp/modules/zox/

さあ、明日も現場

2010年9月16日木曜日

岩盤崩落の一例

火山礫凝灰岩(やや結晶片岩化)した斜面の崩壊地です。見事なクサビ型崩壊です。刃物のようにどがった角礫が堆積しています(流れていません)。斜面の下は河川の攻撃斜面になっていますので、もともと不安定な状態になっていました。

2010年9月15日水曜日

パイピングホール

これは9月8日の豪雨で農地の畦に発生していたパイピングホールです。この背後には、河川の蛇行跡が段丘化した地形で集水性があったので、豪雨が浸透しやすい状態だったのでしょう。まわりにも、5~10㎝程度のパイピングホールが沢山ありました。周辺は国土交通省の調査や測量、工事の真っ最中でした。

2010年9月14日火曜日

今日もまた急な現場

 現場の帰りの携帯からですが、社長から「明日災害調査いかへん」ということで、先日豪雨被害のあった神奈川県北部の山中に出かけてきます。

2010年9月13日月曜日

防災・防犯・災難

 時々週間防災格言というサイトからメールが届きます。そのなかには、今週起こった過去の主な災害が記されています。いくつかあげてみますと

 ・1950 カスリーン台風(利根川・荒川が決壊 死者1,529人)
 ・1984 長野県西部地震(M6.8 木曽郡王滝村で死者29人 )
 ・1997 福島県 安達太良(あだたら)山 硫化水素ガス発生(登山者4人死亡)
 ・2008 リーマン・ショック リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)破綻
 ・1890 オスマン帝国 軍艦エルトゥールル号遭難事故(和歌山県 死者500人)


 災害とはいっても事故に近いものもあります。リーマンショックなんてのは言ってみれば”経済災害”です。でも、この”経済災害”はいろんな影響をもたらします。投資余力が限られるため、公共事業でやる防災対策ではムダがなくなるのかと思いましたが、実際は限られた投資で大きな効果というよりも”できるか、できないか”の二者択一に近いものがありました(実際、昨年の土石流災害を受けてドッと増えた砂防事業で、目新しい方法論はなかったように思います)個人・民間の防災では、防災対策に資金をつぎ込むという発想がなくなってしまいました。さらに、CO2をめぐる温暖化論のメッキもどうやら剥がれてきましたので、”事業”のコンセプトがさらに混迷をしてきました。私たちは、まずはやれることは実直にやり、それをアウトリーチするという地道な活動をつづけていくしかないでしょうか。

2010年9月12日日曜日

急遽現場

 今携帯から書いてます。渋滞していますが、東京タワーの夜景がとても綺麗です。それにしても尾根の急崖や腰まで来る沢を上った先にある森林の調査、もう少し調査費がないものか、、、

2010年9月11日土曜日

The Day after tomorrow

 今日TV版で再放送がありました。リアルタイムの時には見ていなかったので。IPCCは、そろそろCO2を犯人扱いした温暖化論にスミマセンと頭を下げようとしているムードもあるなかで、また、一般的に今日、9月11日といえば同時多発テロの発生日を思い出すのだろうと思いますが、これに関する回想的な番組もなし、、あまり間がいいとはいえないかも知れません。

2010年9月10日金曜日

『環境地質学』という本

 社長との食事をしていたら、『環境地質学』と正面きって解説した本は、日本には以外と少ないという話題になりました。日本の「環境地質学」は、いまのところ廃棄物処分や土壌・地下水汚染対策など、公害対策の延長線上にあるようなイメージです。そして、その先に「事業」が見え隠れしますが、海外の「Environmental Geology」に目を向けると、日本では「災害地質学」に分類されそうな分野や、プレートテクトニクス理論も日々の暮らしとの関連で解説されたものが多いようです。

 環境地質学参考書(かだいおうち:岩松先生のサイトの一部です)
 http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/reference.html#
 http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~oyo/contents/ernst.html

 駒井 健(2007):土壌汚染対策の課題と環境地質学の役割,地学雑誌.Vol116,№6,pp.853‒863
http://www.geog.or.jp/journal/back/pdf116-6/p853-863.pdf

私たちは生態系や最近注目されている災害廃棄物にも目を当てたいということで、以下のようなPPTファイルを作成してみました(今後更新されます)
 http://www.kankyo-c.com/publication/env-geo.pdf

 海外の「環境地質学」の本を読んでいてまず感じる違和感は「自然は人間がコントロールするもの」というニュアンスを感じることです。日本には”借景”や”わび””さび”といった、なんとも外国語にしにくい”風土””風情”があります。それは、日本の自然が変化に富み繊細であるがゆえ”調和”しなければならいい背景があります。その辺を、地質学の立場から論じてみようという試みを、いま始めています。

2010年9月9日木曜日

共通の「設計図」 - 木内里美氏のコラムから -

 IT関連の記事を連載されている木内里美氏のコラムに興味深いものがありました。

 崩れたパートナーシップと回復への道 http://impressbm.co.jp/e/2010/09/09/2733
汎用機時代にはベンダーと企業のシステム部門が一体感があった。(略)。ベンダーからは担当技術者が送り込まれて常駐し、様々な問題をユーザーと解決した。システム担当者は独自環境を学びつつ自らプログラムを書いた。ベンダーは開発、運用、保守までを一貫して行うことからユーザー企業の風土や業務を理解し、相互のパートナーシップは拘束力で守られていた。
 ---------------------------- (中段略) ----------------------------
 議論を通じて筆者が感じたことは、ソフトウェア開発に「設計図」をもたない現行手法の問題である。建設業の出身である筆者からすれば、設計図や標準積算が当たり前の存在であって、そのどれもが曖昧になっているソフトウェア開発の実態には驚嘆するばかりである。

 私が主に携わるのは、斜面崩壊調査、地すべり調査、地表・地質踏査、道路法面調査・点検等ですが、いずれも地質図と調査結果に基づく概略設計図等ですから、基本的に「アナログな観察」による産物ですから、このような仕事では図にしないまでも設計イメージを持たないことはありません。
 ただ、最近増えてきた土砂災害防止法による基礎調査には、木内氏の仰ることがぴったり当てはまります。平成11~13年あたりに行われた災害危険個所の調査では、現地調査者の所見や調査者が考えて設定した氾濫区域等が書かれていましたので、議論の余地がありました。いまは、DMやTINの精度もさることながら、土砂移動をどのように想定してプログラムを組まれたかが見えなくなっています。CH級の”ビンビンの岩”でも、傾斜と高さだけで危険になってしまいます。そういうシステムだと割り切って、自分の自然観・観察眼が鈍らないようにしていますけれど、、、

2010年9月8日水曜日

意外と注目されない都市の斜面

 今年の地すべり学会で後輩が発表したことを、少し意訳して会社のHPに上げてみました。

 都市斜面の環境と今後の課題
 http://www.kankyo-c.com/park_safety/park_safety.html

 例えば、講演が避難所になっていることは結構皆さんご存知ですが、そこに至るまでの道のりや、斜面に囲まれている場合、表層崩壊、谷埋め盛土の地すべりなどの災害リスクが潜んでいます。いま、戦後の都市の発展と斜面災害とのかかわりの歴史についても、研究している最中です。

2010年9月7日火曜日

日本語の豊かさ

 1本の葦には、川からきた海苔も海の海苔も、巻貝たちさせまとわりついていた。葦がそよぐとはそういうことだった。渚を縁どる葦むらとはそういうことだった。ながい間それは日本人の心性の中にすりこまれていた基層的な情景だった。

 これは、石牟礼道子詩文コレクション 『渚』 に所収されている一節です。たった3行ではありますが、日本の原風景とそこに潜む情景が伝わってきます。最近英語の公用語化に関する話題が出てきていますが、Landslideひとつとっても、日本語は地すべり、崩壊、土石流、山津波、鉄砲水などいろんな表現があります。実務上の利便さはともかくとして、本来日本人が持ち合わせていた繊細な感性を鈍らせるのではないかと懸念しています。

2010年9月6日月曜日

深層崩壊の真相

 ケンプラッツにこんな記事がありました。

 増加する深層崩壊、特に危険な8%の地域を調査  http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20100901/543156/
 2009年8月に台湾で村をひとのみにした土石流が発生するなど、表土層の下の岩盤から根こそぎ崩れる深層崩壊は大規模な土砂災害を引き起こしやすい。地下水による地盤の風化が要因の一つなので、地球温暖化による気候変動が影響している可能性もある。
 土木研究所土砂管理研究グループ火山・土石流チームの内田太郎主任研究員は、「昔からある現象だ」としたうえで、「長期的な判断は慎重にすべきだが、近年は深層崩壊が増える傾向だ」と指摘する。土木研究所の調査では、1990年代に19件だった崩壊土砂量10万m3以上の深層崩壊が、2000年代には24件に増えた。深層崩壊は表層崩壊と比べ、事例が少ないこともあり、研究や対策が進んでいない。しかし、09年度から国土交通省は深層崩壊が発生しやすい場所の調査に乗り出した。

 深層崩壊の事例は昔からあります。これこそ、情報洪水の弊害で、”最近増えているある種のイメージ”が支配的になっているのではないかと思います。応用地質学会論文賞を受賞した加藤さん、千木良先生の論文では、四国北部中央の法皇山地は、少なくとも5万年前から深層崩壊の原因となる山体の重力変形が進んでいたことが実証されています。

 加藤弘徳・千木良雅弘(2009):中央構造線の地表形態を変化させた四国法皇山脈の重力変形,応用地質学会誌,50(3), pp.140-150

 それに、深層崩壊に関する議論は以前からありました。
 斜面崩壊に関する33年前の議論

 先日応用地質学会の地形研究委員会でもこの話題が取り上げられましたが、どうも砂防関係の仕事の分野をふやし、事業継続する理由を確保することが”真相”のようだという結論でした。やっぱりね。

2010年9月5日日曜日

気候変動と四季折々 - 今日のサンデーモーニングのコメントは?

  先週も書きましたが、今日もサンデーモーニングの「風」のコーナーは暑さの話でした。7月下旬の3連休とともに梅雨が明けて一気に夏になりました。それ以降暑いのですが、今日のコメントにあったように「亜熱帯化して四季折々がなくなると日本人の感性が変わってくる」とは次元の違う話です。
 例えば、気候学が専門の吉野正敏先生は最近の論文で、『温暖のピークは8 世紀から10 世紀であった。ここを「奈良・平安温暖期」または「平安温暖期」と呼ぶとよい。あるいは,「縄文の海進」に対比して「平安の海進」と呼んでもよい』と述べられています。

 吉野正敏(2009):4~10世紀における気候変動と人間活動,地学雑誌,Vol. 118 , No. 6 p.1221-1236  http://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography/118/6/1221/_pdf/-char/ja/

 こちらのエッセイがわかりやすいでしょうか
 http://www.bioweather.net/column/essay3/gw14.htm

 そして、四季折々の日本人の感性の「原典」、枕草子は西暦996年に成立したといわれています。いまに匹敵するか、あるいは暑いかといった時代に、”もののあはれ”の心情が描写されていたのです(ところで”平安の理科離れ”はあったようですが、http://design-with-nature-simogawa.blogspot.com/2010/08/blog-post_17.html ”平成の海進”はあるのでしょうか)

2010年9月4日土曜日

日本地理学会でもジオパーク

 今年の10月2日,3日に名古屋大学で開催される、日本理理学会の案内が出ていました。

 日本地理学会2010年秋季学術大会  http://www.ajg.or.jp/ajg/meeting/2010autumn/2010autumn_timetable2.pdf

 先日の第四紀学会でもありましたが、日本地理学会でもジオパークのセッションがあります。このほか生物多様性やラムサール条約による湿地保全であったり、いわゆるアウトリーチに向けた取り組みが多くなっています。
 さびしいのは、地形学・水文学など、純粋な自然地理学の発表が減少傾向にあること。鈴木隆介先生は、地理学評論にあまりにも自然地理学が少ないので日本地理学会を退会しようと思うとまでおっしゃっていました。簡単に世の中のムードに流されず、既存の枠にとらわれない地域論を展開しないと、ますます先細ってしまいます。

2010年9月3日金曜日

全てに勝る地表・地質踏査

  しかし、いかなる場合にも、われわれ地質家による踏査、俗にいいます、ハンマーとクリノメーターによる地表地質踏査というものが、直接的なデータとして、第一級の地質調査資料として尊重されているのではないかと思います。
 地表地質調査というものは、地質家(ジォロジスト)が、野外を歩きながら、その身につけた地質学上の知識に従って、岩石を分類して、地図に色分けをして塗るわけでございますが、そういうものは、けっきょく地質学上の基本に関する知識によってつくられていくわけです。基本原理は、教科書に、どんな本にも載っておりますが、地層累重の法則、堆積の初期水平性の法則、あるいは初期連続性の法則、侵食あるいは変位による地層切断の法則といわれた、四つの原理にかなった内容の地質調査をしておるわけでございます。
 そういうことで、地質平面図とともに、地質家が土木の方に提供しうる最大の資料というものは、地質断面図ということになります.掘るにしろ、その上に何かつくるにしろ、まず平らなところを見て、その下がどうなっておるかということを、図にかいて差し上げられるのは、地質家以外にないわけでございます。そういうわけですから、土木技術者にとって、地質断面図は、いろんな情報の集約されたものとして重要視する成果となる。重要視する成果となると私申しましたが、成果であるから、理解して重要視してほしいというのか私の本音でございます。

このコメントをされた松井先生は、新人のころにほんの少しお会いした事があります。当時古希を迎えられ、悠々自適の生活に入られました。とても紳士的な方だなあという印象でしたが、この格調高い言葉からも改めてそう思います。

2010年9月2日木曜日

地すべり断面 - 印象派・明解派・凡例派、それぞれの長短 

昨日の記事で紹介した『土木建設・環境問題と地質学』から引用です。普段、あまり意識していなかったのですが、地すべりの断面図について、興味深い指摘がありました。

印象派・明解派・凡例派、それぞれの長短
ここに、少しふざけた図がかいてございまして、ご容赦願いたいんですがこの図5・3は、三本のボーリングで、ある地すべり地の図をつくったものでございます。

 このいちばん上の、いわゆる凡例をつけた書き方というのは、非常に一般的なやり方でございます。
 二番目に、非常に直截的に書かれた基盤と地すべり土塊。これは土木技術者が、このすべりの安定計算をするということから、よけいなものを取り去りますと、こういう図面のほうが非常にわかりやすいわけでございます。こういう形で斜面にのっておるものが、まだすべるかどうかを検討しようとしますと、こういう図は非常によろしいわけですが、この地すべり土塊を掘っていったら硬い安山岩が出てきた。土砂でなくて岩盤があるぞ。どうしてくれるんだ。ハッパがいるぞ。こういう問題になるわけです。
 そういうことで、三番目の図は、地すべり土塊でありながらその中にある安山岩を表現して描いた、若干これはウソが入っておる図でございます。こういう図でみますと、三番目は印象派と書いてありますが、これと一番目は、基本的には同じことなんです。だけれども、地質について理解の少ない土木の方がおられるならば、三番目の話は非常にわかりやすいということになります。むかしの地形がこうなっておってそれがこういうふうにすべったんだ。この滑ったあとの断面積とすべる前の断面積と合うでしょう。よく断面図をみますと、体積が全然合わない。断面上に滑らないでよそへいっちゃうやつもありますから、かならずしも合わないのですが、こういう相互関係の矛盾のある図面がずいぶんあります。こういう体積関係が合うという図にして、こういう形で滑っておるんです。ボーリングの下にある砂利層というのは、昔の川の砂利なんですと言ういきさつ、これは相手方の地質学に関する理解度、あるいは調査の目的によって変えてやるというのが我々の使命だと思います

 結構私は”印象派”の図面を書きます。民間・個人の専門家でない人からの依頼が多い時は、すごく”印象的な絵”を書きます。逆に、基礎調査などは”明快派の超手抜き”断面です。このような考え方は、CADの台頭とともに薄れていった気がしてなりません。

2010年9月1日水曜日

下請けからの脱却 - 35年前の議論


 いま、社長が「環境地質学」のコンセプトを明らかにし、世に広めるための論説を書いています。少し読ませていただきました。そのなかで、『土木建設・環境問題と地質学』に述べられている現状と課題があまり変わっていないとの意見を書いておられました。ざっと読み通してみましたが、なるほどそのとおり、そして、私にとっても勉強になる部分が沢山ありました。今週は、この本から何回かブログの連載をします。一応アマゾンのアドレスと、内容の概要を示します。


『土木建設・環境問題と地質学』日本地質学会
  第1回地質学課題シンポジウム(主催:日本地質学会,日本学術会議地質学研究連絡委員会 開催日:1974年12月23日)の記録

・地質学のテーマをみなおす(総合司会:藤田至則)
・環境問題における地質学の役割(座長:石井求 話題提供者:高橋一,松井健)
・地下水資源問題における地質学の役割(座長:石井求 話題提供者:鎌田烈,柴崎達雄)
・土木建設における地質学の役割(座長:井上康夫 話題提供者:池田俊雄)
・現場はどんな地質家を要求しているか(座長:井上康夫 話題提供者:羽田忍)
・総合討論(座長:小野寺透,武田裕幸)

 今日は、上の画像で松井 健(たけし)先生のご意見を紹介します。グゥの音も出ません。