2010年7月31日土曜日

鉄の骨

 NHKのドラマの「鉄の骨」が最終回ということで見てみました。1回くらいしか見たことはないのですが、この業界の傍らで聞いたような話だし、途中でわからなくなるような複雑な話でもありませんし。。
ストーリーは予定価格の80%ラインの入札ガチンコ勝負。いわゆる営業マン、スーツ姿の人たちが下請け業者に頭を下げて回り、なんとか赤字の出ない積算に持ち込む。いったん、談合に屈したように見えた常務さん(陣内孝則)が、誰にも秘密で、そして自分も談合の全てをぶちまけ逮捕される。。。
 まあ、いかにもドラマだなあという感じではありましたが、その後の低入札合戦までドラマになるかどうかはわかりませんが、、、、1円でも安いほうが勝ちという状況は変わっていません。問題は決して、安いが”価値”ではないということです。ドラマで対象となっていた物件の額を聞いていると、私たちがやっている斜面点検、防災点検なんてのは、桁が4つも5つも違うことがあります。実はそこに、その後の投資額がどうなるかという鍵があったりしますので、そういうリスクを背負うことに対しては、もう少し価値を見出してほしいのですが、、、、

2010年7月30日金曜日

応用地質学会のHPが変わった … もう一息

 どうにかならんもんかなあと以前から思っていたことですが、応用地質学会のHPが様変わりです。

 応用地質学会 http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/index.html

 地層にこだわっているのか、茶色の縞模様がベースになっています。もう一息ですね。単に地味とか枯れた雰囲気(むちゃくちゃ言ってますが)というだけではなく、水や生態系、土壌、大気といった、私たちの暮らしの環境構成要素やその循環系といった視点をイメージさせてほしいのです。まだ、土木建設のアドバイザーの域を抜けていないような気がします

 でも、なによりうれしかったのは、過去の論文が創刊号からPDF化されていることです。
 
http://www.journalarchive.jst.go.jp/japanese/jnltop_ja.php?cdjournal=jjseg1960

 本当に社会に開かれた学会になるには、こういうところが重要だと思います。
 さて、あとは砂防学会ですが、、、、

2010年7月29日木曜日

CO2のほかにも、、

  車で長距離移動するときは、NAVITIMEを使う方も多いでしょう。こんど、自分の研究対象フィールドに行こうと思って検索したら、CO2の概算値が、、、う~む、、気にする人がいるんでしょうか。特に渋滞中に、おいやばいよ、Co2めちゃくちゃでちゃうよう なんて
 いまは、産業総合研究所が、GooGle mapとオーバレィした地質図を試験公開中ですが、ルート中最も古い地質の存在する区間を示してくれるとか、、、車窓から地球の悠久の歴史を思い浮かべるのは、地質を学んだ者の楽しみ方ではありますが、行き過ぎたダイエットじゃあるまいし1g単位でCO2減らしに躍起にさせられるようで、いかにも世知辛いです。

2010年7月28日水曜日

避難の大切さ

 上司が岐阜県の土砂災害調査から帰り、生々しい話をしてくれました。
  http://www.kankyo-c.com/Recent_investigation/2010_gifu/2010_gifu.html

 ある災害箇所では、谷頭表層崩壊を引き金にした土石流が民家を全壊しました。ある住民の方は、奥様が18:30、ご主人が19:00 ごろ避難をし、何を逃れたというお話を伺いました。奥様の話によると、先祖代々120 年間、何事もなく暮らしていたのですが、当日は18 時ごろから雨がひどくなり、上の小沢や斜面から土砂混じりの泥水が出るようになってきたので避難をされたそうです。そして、翌日家に着くと家は全壊で家の中の止まっていた時計の時刻が20:15 であったとのことでした。まさに、40mm 以上の豪雨の最終段階での土石流の発生であり、崩壊の予兆を的確に捉え、事前の避難を的確にすることが、いかに重要であるかということです。
 
 がけ崩れは確かに繰り返しますが、その場所、ピンポイントで崩壊する確率は数十年~数百年オーダーで、人生で一度あるか、ないかです。言い換えれば災害避難の"ベテラン”はいないということになります。気象情報、警報、避難勧告は参考にするべきですが、最終的には自分の判断力がものを言うだなあという印象です。

2010年7月27日火曜日

10年後必要な土木技術 - 河川・砂防 -本当に必要な技術とは? -

 ケンプラッツの記事で、10年後に必要な土木技術 - 河川・砂防 -という記事がありました。気になったところを抜粋して、コメントを添えます。

10年後必要な土木技術 - 河川・砂防
http://kenplatz.nikkeibp.co.jp/article/const/news/20100723/542439/?P=1

・降雨災害の多様化によって、毎年発生する河川氾濫や土砂災害は依然として減少していない。

  降雨災害の多様化というのは、人々の生活の場の多様化と捉えた方が良いでしょう。そして、降雨観測技術の高度化に伴う情報の多様化もあるかもしれません。山が崩れて土砂が流れて扇状地や平野を作り、海に流れる。これは単純明快です。

・情報化社会の進展によって、いつでもどこでも情報が入手できる環境であることが想定される。その場合に、自分が所在している地域のピンポイントでの災害危険個所や避難場所の情報が求められる。個別の危険個所の危険度や災害発生予測技術を進展させておく必要があると考えられる。

 一番必要なのは、当事者の情報解釈能力です。まず、地図上で自宅と避難所の位置関係(微細な標高差も含めて)わからない人が多い。大縮尺と小縮尺を逆に解釈している人。メッシュ情報のなかでは、さらに困難。マスコミで流れる「どこでも大地震が起きる」「温暖化で深層崩壊が増える」という一般論に流されないこと。まさに、現場を知ること。これは10年じゃたりないでしょう。

・温暖化による河川区域での生育樹種の変化予測
????????????????????????????????????少なくとも第4紀後半の気候変動をみただけで、時間スケールの桁が4つ違う。

 もっとも気になるのは、PCのスペック向上への期待と温暖化の懸念が多く、”家族を守る”といったスケールの臨場感がないことです。地すべりの多発時期の解明や、それに基づく不安定な地すべりブロックの抽出には、地質学的な観点が必要です。

2010年7月26日月曜日

まだまだアウトリーチが足りない

 最近本当に宅地診断の相談が増えてきました。特徴的なのは、マスコミ報道や防災関連の諸機関が題している情報をインターネットでみて不安になった、という相談がちらほら出てきたことです。先日も書きましたが、土砂災害防止法に基づく危険箇所が各県で公表されているのをみて、沢山あるから自分の家も"危険地帯”に属するのではないか。県が公表している活断層図を見たら、自分の家の近くに「地質断層」がある。地質断層は本当に地震を起こさないのか、地震ではなくても家屋の建築にあたって問題はないか(実際近いといっても5キロ以上はなれた小規模な断層でしたが、、、といったら、なぜその断層が小さいとわかるのかと聞かれ、、、)
 少し地形・地質を学んだ技術者なら、ああ、穏やかな斜面だなあ、と特に調べなくてもわかるんですが、情報洪水によっていろんな不安要素が撒き散らされています。防災は心理学ですから、不安があおられるとトコトンまで質問したくなる気持ちもわかないではありません。特にNHKや役所の情報は正しいとの思い込みもあるところへ来て、それらの情報のスケール(縮尺)と現場とのすり合わせが出来ないと、説得に時間がかかってしまいます。地質断層とは、地質図ってなに?とかなりそもそも論的なところから突っ込まれてしまいました。
 このあたりは、私たち専門技術者にとってのビジネスであり果たすべき役割でもあるのですが、まだまだアウトリーチが足りないと思います。

2010年7月25日日曜日

自然は曲線を創り、人間は直線を創る

建築家の下山先生のブログに、Architecture without Architects に掲載されている出雲平野の写真がありました。ここでも引用したいと思います。その建築及び周辺の土地利用について、下山先生は、『冒頭の写真、道が曲っていますが、それが何故か、建築の人で考える人はきわめて少ない。それは「地理学」の話で建築ではない、というわけらしいです。』

日本の建物づくりでは、「壁」は「自由な」存在だった-8(了)・・・・「住まいの原型」の記憶

 この話を聞いて、湯川秀樹の言葉を思い出しました。
『自然は曲線を創り、人間は直線を創る』

 遠近の丘陵の輪郭、草木の枝の一本一本、葉の一枚一枚の末にいたるまで,無数の線や面が錯綜しているが、その中に一つとして真直ぐな線や完全に平らな面はない。これに反して、田園は直線をもって区画され、その間に点綴されている人家の屋根、壁等のすべてが直線と平面とを基調とした図形である」。「しかし、さらに奥深く進めば再び直線的でない自然の真髄に触れるのではなかろうか」。

  確かに、文明の発展は合理的かつ便利であることを求めてきた歴史であるともいえるでしょう。その結果として”直線的”になるのは自然だと思います。でも、直線”的”であることではなく「直線」にしてしまおうとするとき、無理が発生します(私は、作成・提示する図面が地質図、地形分類図であるときはイラストレーターを、対策工を提案する場合はCADを用いるようにしています)。そうえいば、昨日飲み屋で、渓流防災に関しては、コンクリートの砂防ダムで土石流とめようというよりは、滝という天然のスリットダム、あるいは床固工を参考にして、それをひとつかふたつ増やすという認識でいたほうが理解しやすいだろうと語っていたことも思い出しました。

2010年7月24日土曜日

新たな出会い

 今日は月1回恒例の同業者で構成する勉強会でした。懇親会にて、とても活発で(かなりラテン系な感じの)女性技術者との会話が弾みました(ホントに最近女性がパワフルだなあと感じます)。
 彼女は、地球環境学という名称の学位を取得していました。専門は水文学でした。氷河時代に閉じ込められた化石水や化石海水から地層の堆積環境を解析するのがテーマなんだんそうですが、循環する水のうち、最も見えにくい部分を想像するところにロマンと愉しみがあると、はじける笑顔で話してくれました。来月にはアフリカに井戸掘削に行かれるそうです。エネルギッシュな人でした。

2010年7月23日金曜日

車1台分の防災対策

 個人や民間の防災に関わる相談に関わっていると、本当にシビアです。今日は住宅リフォームのなかで、地盤補強ができないかという相談でした。当然、リフォームにかけられる予算には限りがあるわけですが、これが公共事業の急傾斜地崩壊危険箇所だと桁がふたつくらいは違うわけです。そして、規格にあっているかどうがが第一義として話が進められますので、どうしても一律、永久構造物となってしまいます。

 住宅リフォーム会社の方の話では、現在営業展開をするにあたり、少しは壊れるものをつくるがキーワードになっているのだそうです。永久建築物にすると高くつくので売れないし、買い手の理解も進んできたのだということなんです。特に住宅リフォームとなると、個別の物件ごとに損傷の度合い、周辺の施工条件、地形、地質、そして盛土の劣化など、ひとつとして同じ現場がないので、現地単品オーダーメイドになります。

 そして、公共事業と決定的に違うのは、予算の規模です。対策工の施工まで踏まえ、だいだい車一台分の予算だというのです。公共事業だと家1件分以上のことがざらです。そして、地表・地質調査費用はもっと少ない。そこで適切な結論をださねばならない。

 ただいえるのは、発注される額こそ違うものの、「技術者冥利」という意味では個人・民間の方がやりがいがあります。その辺は、私の論文に書いたところでもあります。

下河敏彦・稲垣秀輝(2010):市民社会にとっての地質技術とアウトリーチ,応用地質学会誌50(6),pp.345-349

2010年7月22日木曜日

法指定区域と危険(2)

 以前にも法指定区域(いわゆるレッドゾーン)と本当の災害の危険性にはずいぶんギャップがあるという記事をかきました。

 法指定区域と危険
 http://design-with-nature-simogawa.blogspot.com/2010/06/blog-post_20.html

 今日は、一般の方から、県のホームページをみると、自宅周辺が急傾斜地崩壊危険箇所のレッドゾーンがいたるところに存在している。だから、自分の家も危険にさらされているのではないか、という問い合わせがありました。できるだけ丁寧に解説はしました。一定の条件(傾斜30度、高さ5m以上)で、淡々と設定するだけで、実際の斜面の個性はわかりませんよ、、と、、なにかあったときの免罪符に使うにしては、この条件はあまりにもアバウトです。本当は"計り知れない脅威”に対して、道理に基づき説明するのが私たちの仕事です。また、深層崩壊の可能性や、活断層とそうでない断層の違いについても質問されました。マスコミは、安全なところは伝えないので、妄想が広がっているようでした。

2010年7月21日水曜日

斜面崩壊に関する33年前の議論

羽田野誠一地形学論集 234Pより
(画像をクリックすると拡大)
 上の表は、1977年の月刊地理22巻5号に「地くずれと危険斜面の調べ方」という、羽田野誠一氏と深田地質研究所の大八木先生と編集者の対談集に掲載されていた表です。ここでいう”地くずれ”とは、表層崩壊や土石流を含めた斜面の地形変化、土砂移動現象の総括した用語として用いられています。()書きで(Landslide)とありますので、現在の定義に近いものと言えるでしょう。さて、上の表の右側の列をよく見ると”基”とき記号があります。これは基岩崩壊の頭文字をとったもので、今でいう深層崩壊と同義と思われます。対談のなかで、このようなやりとりがありました。
編 集 :表をみるまでは、地くずれ災害がこんなに多く起きているとは思いませんでした
羽・大: 自然に対する人間の影響(切土、盛土、掘削、地表水・地下水流路の意図的及び無意識的 (山腹道路開設などのよる)森林伐採)がじわじわでてきて、被災対象も急増した。実際には数百年来大災害を受けていない地区が国内にたくさん残っている。そのなかには”免疫性” があるために崩れ難い地区のほか豪雨や地震などの誘因が与えられなかったために残されている地区もかなり多い。

編 集 :近年、豪雨や地震の誘因が強まったということはないか
 大  :専門家に聞いてみたい問題ですが、特に著しい変化を考えねばならない積極的なデータは聞いていません。山の中の観測地点が増えたので、記録的雨量が測られる機会は多くなったでしょうが、、
 むかしから、今と同じ議論があったことが伺えます。

2010年7月20日火曜日

常世の樹

 あのかつらの大樹の梢から、無数の川が音を立てて流れくだり、九州脊梁山系の胎中にある見えない鍾乳洞へ流れ込んでゆく幻聴が、わたしの耳の中に起った。樹は川の源流である。

 これは石牟礼道子さんが、大分県檜原山に訪れた際、『常世の樹』という作品に記された文章です。『常世の樹』を直接読んだわけではなく、最近出版された『不知火』のなかの解説文から引用しました。

 檜原山といえば、本耶馬溪のある山国川の上流域なのだろうと思います。耶馬溪火砕流は,約100万年前、九重山北方にある埋没し た猪牟田カルデラを噴出源とすることがわかっています。石牟礼産の詩文コレクション『渚』のうち、「海はまだ光り」というエッセイの中で、”人間の上を流れる時間のことも、地質学の時間のようにいつかは眺められるような日が、くるのだろうか”と述べられています。最近は20年~30年の時間スケールで起った経済災害の話しばかりで、世知辛い。たまには、このような深遠な感性の持ち主の文章に触れることも新鮮です。

2010年7月19日月曜日

内房線でのジオ鉄案

 先日会社の同僚が、房総半島に津波堆積物や旧汀線に関する巡検に行ってきました。私は別の用事があって行く事ができませんでした。聞けば、縄文海進時の地形面が30m隆起している箇所があるんだとか、、30mの地形面といえば、私の感覚で言えば、ややもすると武蔵野段丘面にも匹敵するとてつもない隆起量です。検索した結果、産総研の研究者の方のサイトがありました。

http://staff.aist.go.jp/m.shishikura/study.htm
房総半島南部鳩山荘付近で見られる2段の離水地形
高位が1703年元禄関東地震において離水した段丘,低位が1923年大正関東地震において離水した段丘.元禄段丘の方が大きく,広い範囲で離水していることから,大正関東地震時より隆起が大きかったことがわかる.

ふと思いました。これもしかして、内房線(外房線)にそって、かなり段丘地形があるのではないか。内房線の車窓からみるプレートテクトニクス。いいじゃなでいすか。

2010年7月18日日曜日

節約時代の斜面防災対策 - とくに大規模地すべりや災害対応に関連して -

  というタイトルの発表が、今年の地すべり学会でありました。過大設計を避けることができたはずの地すべり対策の実例が上げられています

・九州のY地すべりでは、安全率を2%あげるために十数本の深礎杭が施工された
 → 土工などの他の工種に切り替えることができれば復旧工事費を大幅に削減できた

・実際にはクサビ型崩壊であったが、円弧すべりとして計算され、切土、集水井、アンカー、杭工など多種の工法が用いられれた。

・その他、必要以上の法枠工(あつものに懲りてなますを吹くと表現されている)

結びとして、詳しい地質踏査に基づいた正確な地すべり機構の解明がなされていれば、工法の選択が自ずと絞られてくる。正確な地質踏査が継続されるには、それにみあった踏査の評価が必要であるとされています。

至極真っ当な正論だと思いますが、このような論議が平成の22年にもなって出てきたことがひとつ問題でしょう。これも地質リスクマネジメントのひとつだと思います。”節約時代”でなくても、議論が重ねられるべきでした。個人の調査以来を受けると、必要最小限の対策を求められますので、常に節約時代なのですが、、、

2010年7月17日土曜日

土石の旅路

 山は崩れ沢を通り、平野をつくり海へ注ぐ。未来永劫続く自然の脈動は、今年は異常だ、いや10年前とくらべ、生まれてこの方はじめて、、、云々の感覚をこえています。自然はそれが仕事です。「災害」はその仕事にとって都合が悪い場所にあったとき、人間が勝手に騒いでいるだけに過ぎません。

今年も中国地方で豪雨災害がありました。そして去年もありました。去年はその土石流災害に対して、地質学的な調査研究が行われました。私も関わりました。

平成21年7月 山口県防府市土石流災害 調査速報
http://www.kankyo-c.com/Recent_investigation/2009_yamaguchi/2009_yamaguchi.htm

福岡ほか(2009):平成21年7月中国・九州北部豪雨による山口県防府市土砂災害,自然災害科学,Vol.28,No.2,pp.185~201
http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsnds/contents/shizen_saigai_back_number/ssk_28_2_185.pdf
・真尾地区の土石流堆積物には,しばしば周防変成岩の泥質片岩礫が見られた
・源流部には花崗閃緑岩と細粒花崗岩しか分布せず,周防変成岩はさらに数百メートル東方の上流域に分布する。このことは,過去の斜面崩壊などで沢にもたらされた土砂もまた,今回の土石流の母材となったことを示している。
・今回の土石流災害は花崗岩地区の地表に風化で生成されていたマサ土の土層が谷頭で小規模崩壊を引き起こし,飽和した渓床堆積物上に急速載荷することにより土量を増大させながら大規模土石流化した
・特別養護老人ホームは上田南川の出口に立地しており,大半の巨礫はその前の緩傾斜区間で停止し土砂のみが建物内に流入したが,避難に時間がかかる入居者が多かったため被害が大きくなったと思われる。市役所から避難連絡が来なかったため避難が遅れたとされているが,極端な気象条件では自治体も機能不全になることがあり,自主判断で避難するための指針,方策を考えるべき時に来ているように思われる。

そして、ずいぶん前でが、羽田野誠一氏による土地分類基本調査が行われています。これをみると、遷級線、旧河道、沖積錐など、洪水によって形成される地形が精細に表現されています。さらには、急斜面(変成岩類・谷密度小)など、厚い風化帯を示唆する凡例が設定されています。おそらく、土石流や崩壊の発生しやすい地域のひとつとして注目されていたのでしょう。
http://tochi.mlit.go.jp/tockok/inspect/landclassification/land/5-1/3501.html

先に紹介した、自然災害科学の論文ですが、地質学的にも防災的見地からも教科書になるような結果、提言となるでしょう。こうやって情報公開されているのですから、その存在をもっと知られ、議論の機会を増やさねばなりません。

2010年7月16日金曜日

石牟礼道子さんの世界 - 『苦海浄土』 -

このところ水俣病に関するニュースが多く報道されています。上の画像は、水俣病の記録をつづり、美しい文学として表現された、石牟礼道子さんの著作のブックカバーです。苦海浄土は中学生、高校生のときに何回か読みましたが、最新版とはブックカバーのデザインは違っていました。

 このブックカバーに象徴されるように、石牟礼さんの文章の詩情、いまでは景観という言葉であらわされる傾向にあるなか、まさに”情景”という言葉が当てはまります。解説の渡部京二さんは、 海底地形の描写の美しさとその感性の豊かさについて紹介しておられます。

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海のなかにも名所のあっとばい。「茶碗が鼻」に「はだか瀬」に「くろの瀬戸」「ししの島」
海の底の景色も陸の上とおんなじに、春も秋も夏も冬もあっとばい。
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海底扇状地、ノッチ、ベンチ、など地形学的分類や、元禄の津波堆積物など地質学的な分類を行ったことはありましたが、海の中まで感情移入して描写しようという考えは及びませんでした。苦海浄土。。。この描写力で、水俣病の実態が描かれています。鬼気迫るとかいった言葉では言い尽くせません。石牟礼さんの文学は、このあとなんどか紹介することとします。

2010年7月15日木曜日

続・雨の記録

 牛山先生のブログから引用させていただきました。具体的な内容は、牛山先生のブログを読んでいただいた方が良いでしょう。http://disaster-i.cocolog-nifty.com/blog/2010/07/post-4d7c.html

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AMeDAS観測所で,日降水量200mm以上が記録された回数を年ごとに示したものです.この図に見るように,2008年,2009年と,まとまった雨が降る日数が「記録的に少ない年」が続きました.ひょっとすると「日本には梅雨というものがあって,たくさんの雨が広域で降ることは珍しくないんだ」ということが忘れ去られたのかも知れません(本気で言っているのではありませんが,一部報道への皮肉です).しかし,梅雨末期にはこのような長雨と,長雨の後の短時間の豪雨という現象がよく起こるものなのです.長雨が続いていることはけっしていい状況ではありません.まだしばらく,要注意であることは間違いありません.
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このグラフで、最初の突出年である1982年は、未だに時間最大雨量記録を持つ長崎大水害がありました。長崎以外でも、各地で「昭和57年豪雨」として、記録に残っています。最大の突出年は2004年ですが、さすがにこのときは台風が10個上陸するなど、確かに「記録的」でした。しかし、2000年代に関しては、2004年以外はこれと言った豪雨の頻発年はないように思います。これも繰り返しになりますが、”ゲリラ豪雨”などどいった言葉で画一的に表現される情報洪水による想像力の流出、、、これは全国同時に起こるので問題だと思います。

2010年7月14日水曜日

北九州の崩災

 表層崩壊に関する文献を探すと、よく引用されている研究があります。そのうち、竹下敬司氏による一連の研究は(地形的災害と斜面の微地形に関する森林立地学的研究,1961,福岡県林業試験場時報№13など)、昭和28年豪雨による崩壊の先駆的な研究となっています。長崎や神戸に比べるとやや印象が薄いかも知れませんが、北九州市も斜面都市です。
 いまは、大学の学術情報リポリジトリによってPDFで文献が読む事が出来ますが、北九州市の斜面災害の研究として九州工業大学の研究がありました。

 山本 敬・牛島和子(1975):北九州市域における「昭和47年7月豪雨」被害と地質との関連について,九州工業大学研究報告(工学),№31,p1~7
 http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/70186/1/a21b1p26.pdf

 これによると、昭和47年豪雨による崩壊は、山麓堆積物(麓屑面?)、変質をうけた火山砕屑岩類、マサ(風化花崗岩)が主であるとされています。山麓部には例外なく比較的厚い山麓堆積物が載っていると述べられています。釜井先生のいう”尋常ではない斜面”に近いかも知れません。

2010年7月13日火曜日

改めて「記録的」という言葉

 このブログでは、豪雨に関する「記録的」という言葉に対する疑問を述べた事がありますが、静岡県立大学の牛山先生のブログでも、同様の懸念が述べられていました。

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毎年発生する災害事例と比較してそれほど激しい状況になっていない段階で,繰り返し繰り返し「記録的」「災害多発」などということが適切でないと言いたいのです.本当に「記録的」で激甚な災害が発生しそうになったときに,その警告が「またか」と軽視されてしまうことを懸念しているのです。(途中略)月降水量などの非常に長い積算降水量が多いだけでは,洪水,土砂災害には直結しませんが,その後に,1時間,24時間などの降水量が「記録的」になると,危険性が高まります.警戒を怠ることのできない状況であることは確かです。
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最近毎年「記録的」という言葉を聞きます。そして、○○観測所では史上最大値を更新しましたという報道もなされます。それが地球温暖化に短絡されることもしばしば、、「記録的」なのは”記録があるから”であって、アメダスのたかだか30年くらいの記録は簡単に更新されます。例えば終戦直後のカスリーン台風や昭和28年西日本豪雨、日雨量24時間降水量が1,109mmを記録した昭和32年諫早豪雨(南へ約20km離れた島原半島南端では日降水量がわずか86mmと1000mm以上の差があったそうです。いまで言う”ゲリラ豪雨”です)の時代、私が洪水・土石流の痕跡を探しにに足しげく歩いた昭和42年羽越災害、、現在と同じ観測網、情報網があったらもっと「記録的」だったのではないでしょうか。

※今朝のテレビでも「梅雨末期になぜ豪雨?」という視点で報道がありました。梅雨末期がいちばん豪雨災害が多く発生しているので、全然不思議な感じはしないのですが、、、

2010年7月12日月曜日

簡易貫入試験

 腕が張っています。久しぶりに簡易貫入試験をやってきました。簡易とはいっても5kgの重りを落下させる作業や、カチあげて抜くとき(変換で”価値あげて”とでてきました。本当にそうなればいいのですが、、、)腰にくるわ、、、

 簡易貫入試験で思い出すのは、なぜか愛知県小原村周辺の山崩れの研究です。なぜかといえば、私が最初に勤めた会社の上司が、『羽田野誠一地形学論集』http://www.kokon.co.jp/h1406.htmの編纂を手伝っていたときに、愛知県小原村の表層崩壊と土層の回復やその地形的位置に関する研究は、羽田野氏が並々ならぬ情熱を注ぎこんでいた話を聞いていたからです。
 羽田野氏の地形学に関する知見のひとつは後氷期開析前線ですが、愛知県小原村周辺斜面に引かれた遷急線群の”濃密さ”も迫力があります。山地斜面は新旧の崩壊の集合体であるという観点から、魚の鱗のような遷急線群は、その筆圧の高さも伝わってきます。誌面いっぱいにぎっしりとメモ書きも詰め込まれています。地形学関連の”予稿集”では、最も濃密で骨太なもののひとつかも知れません。

 いまは、簡易貫入試験で思い出すのは『斜面防災都市』の釜井先生です。首都圏や阪神都市圏の谷埋め盛土材の強度を多数計測されています。斜面や地形の成り立ちを定性的なモデリングが出来たら、その裏づけのための量的情報はシンプルな方が良いのかも知れません。

2010年7月11日日曜日

日本列島の地形学

 東京大学出版会から『日本列島の地形学』が出版されました。著者には6名の地形学のBIG NAMEが並んでいました。これらの先生方は、私が学生時代に第一線で活躍しておられ、新編日本の活断層や海成段丘アトラスなど、地殻変動、海水準変動、気候変動が最もドラスティックな時代の研究をされました。
http://www.utp.or.jp/bd/978-4-13-062717-7.html

 特に前半部の氷床コアや火山灰、酸素同位体比の最新の知見を用いた地形編年の詳細さは、それだけで買う価値があったと思いました。特に、45ページのテフラ対比・編年できる日本近海の海底コア、湖成層や陸上の風成層の後期更新世の気候プロキシの変化や、108ページの LGMから完新世初期までの環境変化 などに詰め込まれた知見から、改めて第四紀のドラマを想像する楽しさがつまっっています。
 ただ、段丘と地すべり、斜面変動とのコラボレーションがいまひとつ進んでいないような気がします(年代決定資料を採るのは大変ですが)。地すべりの年代については、斜面防災対策技術協会のサイトに解説があります。 
http://www.jisuberi-kyokai.or.jp/gijyoho/gijyutu/tyosa/nendai/nendai.html

『日本列島の地形学』を編纂した先生方が、最も多くの論文を書かれていた時代、○○平野の地形発達史、○○流域の段丘形成史、といった平野を中心とした地域そのものの形成過程を論じたスケールの地理学的研究が盛んに行われました。段丘は”色分け”がされましたが、それに対応するほどの斜面、地すべりの”色分け”は行われていません。これは、河川流域が丸ごと対象となる(最終氷期のはるかかなたの河口までの想像力も含めて)ので、時間も費用もかかるでしょう。壮大ですが、やってみたいテーマではあります。

2010年7月10日土曜日

鹿児島の土砂災害

 鹿児島県南大隅町根占山本では、斜面崩壊に起因する土石流が、2010年7月4日から8日正午までに断続的に7回発生しているそうです(http://www.gsj.jp/Gtop/topics/kagoshima/index.html)。このうち、崩壊したのは阿多火砕流堆積物の柱状節理の発達した溶結凝灰岩のようです。

  鹿児島では何度となく土砂災害が繰り返されています。マスコミの報道では豪雨がもたらされるメカニズムと避難された住民の方が「こんなのはじめてだ」という声を拾うだけ、というパターンも何度となく繰り返されています。また、地球温暖化に伴う豪雨の頻発にとともに災害も増えるといった論調も(こちらも何度となく)繰り返されています。しかし、少し視野を広げれば、昭和28年の有田川災害、昭和36年伊那谷の大鹿山崩壊、昭和51年台風17号による兵庫県抜け山の地すべり、、、数えあげればきりがありません。おそらく鹿児島大学や関連学会が崩壊の素因となる水文地質の詳細調査を行うと思います。深層崩壊については、その地道な努力をひとつひとつ積み重ねるしかないと思います。

2010年7月9日金曜日

都市の災害

  いま、沖縄で地すべり学会が開かれていまして、会社の後輩が『防災拠点である都市公園のニーズと土砂災害への対応』というタイトルで発表しています。これは、都市内部の広域避難場所に指定されている公園などが、逆に災害を受けやすい場所にあるということを指摘した発表です。山間部の指定避難所が土石流に被災したという発表は、砂防学会で何度が発表されたのを聞いたことはあります。しかし、都市内部の潜在する斜面災害、谷埋め盛土災害、軟弱地盤の不同沈下など、複合災害、しかも避難所に行く際の二次災害などに視点を持った研究は少ないと思います。特に、地すべり学会では、都市防災研究はメジャーになっていません。これは私も興味あるテーマであり、地すべり学会のみならず都市計画学会へも打ってでるべきと考えています。

※画像はこの内容をわかりやすく伝えるための作業途中の絵です。

2010年7月8日木曜日

ファースト・ジオロジー - ジオを知るきっかけ -

先日ジオ鉄の話題を書きましたが、主催者の方からメールを頂戴しました。

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ジオ鉄は、ジオの人たちには鉄道技術を知るきっかけに
 鉄道愛好家のみなさんにへはジオを知るきっかけに
 そしてこれまで関心がなかった人たちにも
 ジオや鉄道の魅力を知るひとつの入り口、きっかけとして
(そういったものを、私たちは、ファースト・ジオロジーとよんでいますが)
 趣味・観光・教育、、様々な分野への可能性を秘めています
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 このメールを頂戴して、私の”ファースト・ジオロジー”はなんだったか、想いをめぐらしてみました。
 確か、小学校2年のころ、最初で最後の家族旅行にいったとき、山口県の萩市を流れる松本川の河幅の広さに感動し、それを地図帳で探したところからでした。いま考えれば、なぜあのとき河幅の広さにあれだけ印象にのこったのか、それは私が有明海に注ぐ干満の差の激しい川しか見たことがなかったからだと思います。満潮する昼ごろと干潮になる夕方ごろでは5mくらい水位が違いますので、流れが激しくゆったりとした河口部を眺めていなかったのです。そこから、まず地図帳にはまってしまい、なんと掛け算の九九よりも47都道府県とその県庁所在都市名を先に覚えていたくらいです。大学に入ったら、一般教養の時間に『濃尾平野の水害地形分類図』
http://www.library.pref.gifu.jp/map/tenzi/kannai/H17/hazard/hazard_sakuhin/6.html
が取り上げられ、これで飯を食ってみたいというモチベーションが沸き起こり、今に至るわけです。

 だから、正確にはジオロジーというよりジオグラフィーなんです。

 ただ、斜面の地形判読をやるようになって、鉄道は本当に斜面災害をうけにくい場所を考え抜いてルート選定されていることや、それでも地すべりによる災害を受けてきたことなどを知るにつれ、”ジオ”にも”鉄”にも関わってきたといえば関わってきました。

 鉄道の車窓で個人的に好きなのは、江ノ電、東海道本線の小田原~熱海間、飯田線、長崎県の北松浦鉄道でしょうか。時間があれば”ジオ鉄”してみたいところです。

2010年7月7日水曜日

七夕と夕立

 今日は七夕ですが残念ながら曇っていて天の川を望めそうにありません(それ以前に首都圏は明るすぎて天の川など望むべくもないのですが、高校生のころまでは晴れさえすれば毎日天の川の拝める田舎に住んでおりました)。とはいってもこの季節、夕立もひとつの風物詩です。このブログ(旧ブログも含め)ゲリラ豪雨という言葉が好きではないと述べてきました。
 そういえばお盆に小学校時代の恩師に会えることになりました。当時、いまの私と同じか少し若いくらいだったと思いますが、詩を読むことが好きなロマンチックな先生でした。当時きいた詩に高田敏子さんの「忘れ物」という詩があったことを思い出しました。冒頭はこんな詩でした。

入道雲にのって  夏休みはいってしまった
「サヨナラ」のかわりに  素晴らしい夕立をふりまいて

夕立は丁度遊びつかれたころに降ってくれました。現象としては稲妻もあるし、大雨も降るし、1時間程度で終わるし、たしかに昨今の東京で降るような激しさではなかったにしろ「ゲリラ」というほどの”不意打ち感”はなく、破滅的なイメージもありませんでした。それに、ゲリラと言われては”雨宿り”なんて優雅な風情も出てきません。なにより自然現象を描写する気になれない。その想像力の流失こそ、防災心理にとっては重要なのかも知れません。

2010年7月6日火曜日

ジオ鉄

 今年10月22日から島根県で開催される応用地質学会のプログラムが発表されました。

http://wwwsoc.nii.ac.jp/jseg/r_new/committee/gyouji_box/2010/annual_meeting/pdf/2010_program.pdf

私はといえば、まず七面山周辺の地形発達の話をします。そして、ポスターセッションにおいて
『地域の社会基盤形成における地形情報の意義を視覚化した応用地質学的ガイドマップの作成』
いうことで、地域の観光にも使える地質情報のプレゼンをやります。

このタイトルを見て”かたいなあ”と印象を持つ方も少なくないでしょう。そしたら、私の隣のセッションで、とても魅力的な発表が予定されていました。

ジオ鉄-自然を楽しむ鉄道旅行-の提案

まず、楽しむってのがいい。これがいままでの防災をベースとした地質学のアウトリーチに少なかった視点です。私の想い出アルバムのなかから”ジオ鉄ネタ”をさがす作業自体が既に面白い。ビジネスにつなげるノウハウはまだ思いつきませんが、地学を志す子供たちが増えることにはつながると思います。いろんな情報交換をしてみたいと思います。

2010年7月5日月曜日

地すべり学

 衣替え以前のブログにコメントを寄せてくださった方がおられました。7月ごろにUPした記事なので、失礼ながら思い出すのに時間がかかってしまいました。新潟のお住まいの布施さんという方で、地すべり防止工事に長らく携わっておられた方のようです。新潟県といえば地すべりのメッカで、多くの研究が蓄積されていますが、地すべり研究に関する個人のHPを開設され、メインのタグに「地形発達史」があるサイトは初めて見ました。

 地すべり http://www016.upp.so-net.ne.jp/landslide/index.html

 私も地すべり地形の発達史に関する論文を書いています(PDFの画像が粗いので、私の論文を使ったwebサイトを紹介します)。 http://www.kankyo-c.com/lanslide.html

 そして、布施さんのHPに、注目すべき論文を見つけました。

十日町市水梨地すべり地の地形発達史と地すべり―地すべりの集中発生時期―
http://www016.upp.so-net.ne.jp/landslide/mizunasi.pdf
調査地や周辺地域では、多雨・豪雪という小氷河期の気候が、地すべりが発生するための内的条件である岩盤の風化を促進し、同時に外的条件つまり契機としての地下水位の上昇をもたらした。そのために、小氷河期に地すべりが集中的に発生したのであった。小氷河期の後も、岩盤等の風化が進行した。それと共に、以前には地すべりが発生する契機にはなり得なかった程度の地下水位であっても、契機になり得るようになった。その結果、小氷河期に続いて後小氷河期にも、多くの地すべりが発生したのである。

 地すべりの多発期といえば、私のなかでは最終氷期が終わるころの温暖化がメインであると思っていました。そして、私の論文では、大規模な(初生的)地すべりの輪郭は直下型地震で形成され、そのなかで細分化が始まる(私の会社の上司は、四国中央構造線から離れるに従い地すべりブロックの輪郭が小さくなっていく、すなわち直下型地震の震源に近いところに大きな地すべり地形があることを論じおています)。

 その点では、布施さんのご研究は示唆に富むと思いました。小氷期あたりは地すべりに関する言い伝え、伝承・伝説も少なくありませんが、それに地形発達史的な裏づけができれば面白いと思います。そして、日本の里山の風景を作る地すべりは、第四紀後半の気候変動・海水準変動・地殻変動に対する情報の宝庫であることを物語っているのです。

2010年7月4日日曜日

人にやさしくない情報防災の課題



 先日紹介した「地質と調査」に、『近年の豪雨災害にみる情報防災の課題』という論文がありました。上に示した図は、災害情報共有化をめぐる主なボトルネック と題されています。高齢者を中心にITに触れる機会の少ない方の情報格差の問題や、人間はとかく忘れやすい存在であるため、ソフト対策は根気よく続けなければならないことが指摘されていました。

 同じ号に掲載されている(先日紹介した)牛山先生の記事では、『ソフト対策を”なんとなく簡単でかっこよくて、役立ちそうなどど甘くみてはいけない。造りさえすれば効果を発揮するハード対策と異なり、(途中略)整備者、受益者双方が、かなり努力しないと効果を発揮しない、人にやさしくない防災対策である』と述べられています。この論文では、『ソフト対策は「竣工」「概成」と呼べる時点がない』と表現されていました。

 渓流や斜面防災に関しては、”何かが起こりそうな気配”のない平常時、斜面・渓流に関心をもち、実際に歩いてみて豪雨でどう動くかをイメージトレーニングして、”さしあたりのハード対策”でも打っておくことが大事と思っています。地震に関しては震度7の体験車などを通して揺れを疑似体験し、まわりのモノがどう動くのかイメージする機会もあります。また、固定していない家具はすぐに倒れますが、さいあたり止め金具でもしておけば相当倒れにくくなります。土石流に関しては、過去に動いた痕跡がどこに、どのように、どれだけ残っているか、崖崩れに関しては表土層がいかに”やわらかい”かを知っておくことで、どういう手を打つべきか、自主防災組織くらいの単位で巡検をしておくのもよいかと思います。日曜大工ならぬ、日曜防災です。そして、私たち専門家がアドバイザーに加わるべきです。

2010年7月3日土曜日

阪神大"水”害

 阪神地域の災害といえば、みんな平成7年に発生した阪神・淡路大震災をイメージすると思います。阪神・淡路大震災の直前まで、私は卒論で阪神地域の地形と水害の変遷をテーマにしておりましたから、阪神地域の災害といえば、まず昭和13年7月3~5日の阪神大水害を思い出すわけです。
 上の写真は以前釜井先生と谷埋め盛土の巡検に行った際に案内していただいた、阪神大水害の碑です。碑の材料には六甲山系から流されてきた花崗岩の巨礫が利用されています。碑の高さは洪水の高さを示しているのだそうです。谷崎潤一郎が小説「細雪」のなかにその様子が描写されていることも有名です。

2010年7月2日金曜日

近年の豪雨災害 - イメージと実態 -

 地質と調査2010年2号に、上記のタイトルの論文があります。著者の牛山先生は豪雨記録の解析から、1990年代以降豪雨が急増しているという印象はなく、やや減少気味にさえ見えると述べられています。また、豪雨災害が増え続けているといった漫然としたイメージが先行してしまうことを懸念しているとも述べられています。私はこの要因として、奇しくも90年代から広まった「地球温暖化」のイメージ先行、情報網の格段の整備があげられると思います。災害がリアルタイムで”伝わる”ので、事実よりもインパクトがあるのです。
 ”豪雨の頻発という漫然としたイメージ”ということでいえば、最終氷期から後氷期に至る気候変動に伴う地形変化もあげられると思います。いまでこそ、結構市民権を得た感のある後氷期開析前線は、空中写真で抽出しづらい地形要素であるため、生みの親ともいえる羽田野誠一氏は、周辺の方々からいろんなことを言われたと聞いています。
 それは、最終氷期の対して”冬のイメージ”が強すぎるのではないかという意見です。羽田野氏は、あまりにも明確に自信を持って、かつ連続的に線を引くものですから、空中写真で見えないものを心眼で引いているのではないかと懐疑的な意見も受けたようです。
 当然最終氷期には、降雨量の数値データがありませんから、イメージで語るしかありません。地形学・地質学の楽しみでもあります。数値はイメージを絶対化する魔力を持っていますから、間違った方向に行くと、なかなか取り返しがつきません。

2010年7月1日木曜日

古墳 航空レーザーで高精度測量図

 私たちの業界の大手航空測量会社は、こぞって航空レーザー測量技術を開発しています。航空レーザー測量とは、上空からレーザー光を照射し、地表で反射して戻る時間から高低差などのデータを得る測量法で、地表のけもの道に至るまでとても詳細な地表の姿がわかります。このたび、アジア航測株式会社が、古墳の航空レーザー測量結果を公表しました。

古墳 航空レーザーで高精度測量図
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100626-00000021-maip-soci

 航空レーザー測量はとても高度な技術で、初めてみたときはその精密さに思わず感嘆の声をもらしたものです。中央大学の鈴木隆介先生(地形学)は

 1960年代は1/5万の地形学だった。
 1980年代は1/2.5万の地形学だった。
 1990年代は1/1万分の地形学を期待したが都市近郊に限られた
 このレーザー計測図があれば1/1の議論ができる。

 と述べられました。言いかれば 領域→地域→区域→現地スケールという意味だと思います。
 これほどのものでありながら、基本的に"業務用”だったので、あまり表にでることはありませんでした。しかし、このように国民的関心事である考古学とコラボレーションすることで、地形学が少しは普及するかもしれません。