2010年6月30日水曜日

根府川の海

 明日から箱根方面の防災点検に行ってくることになりました。対象箇所には、根府川も含まれています。根府川といえば関東大震災及びその後の豪雨で発生した土石流により、大きな被害の生じたところです。また、私が空中写真で斜面発達史を考える上で、重要なヒントとなった「後氷期開析前線」の分布図が示された流域でもあります。

 そして、根府川にはもうひとつ個人的な思い入れがあります。好きな詩人の一人である、茨木のり子さんの代表作のひとつである「根府川の海」という詩です。

 根府川の海
 
 根府川 東海道の小駅 赤いカンナの咲いている駅
 たっぷり栄養のある大きな花の向うに 
 いつもまっさおな海がひろがっていた

 中尉との恋の話をきかされながら
 友と二人ここを通ったことがあった 
 
 溢れるような青春をリュックにつめこみ 
 動員令をポケットにゆられていったこともある
 
 燃えさかる東京をあとに
 ネーブルの花の白かったふるさとへたどりつくときも
 あなたは在った丈高いカンナの花よ 
 おだやかな相模の海よ 
 沖に光る波のひとひら
  
 ああそんなかがやきに似た十代の歳月
 風船のように消えた無知で純粋で徒労だった歳月
 うしなわれたたった一つの海賊箱
 ほっそりと蒼く国を抱きしめて
 眉をあげていた菜ッパ服時代の小さいあたしを
 
 根府川の海よ
 忘れはしないだろう?
 女の年輪をましながらふたたび私は通過する
 あれから八年ひたすらに不敵なこころを育て

 海よ
 あなたのように
 あらぬ方を眺めながら…………。

 音楽や詩を鑑賞するというのは、きまった手順や方法があって、こうしなけれ ばならないなどといったことはなく、自由に感じるままに楽しむことなんですが、自然を見る眼もそうです。私のような仕事に携わっていると、自然を見るというよりも科学に基づいて”診る”ことが多いので、このようなこころのゆとりをなくしがちです。

2010年6月29日火曜日

都市の斜面災害研究

 今朝の情報番組で”買い物難民”なる言葉が出てきました。横浜や川崎の崖地や坂道に”超高密度”に開発された都市斜面を、高齢者がなかなか歩けないというものです。見晴らしの良さが重視され、出かける場所が谷底平野という環境を作り出した都市計画の老化現象ということが出来ます。都市化と災害発生の場所と種類がとのように変遷してきたかについては、私は卒論の一部で扱ったテーマです。その総論は釜井俊孝先生の「斜面防災都市」に集約されています。
このテーマは、私の会社の後輩が研究テーマにあげています。業務で扱った、災害避難場所としての都市公園のあり方に問題意識をもってのことです。地すべりといえば、第3紀層地すべりだとか崩積土地すべりだとか、いろんなタイプに分類されていますが、谷埋め盛土を「都市の地すべり」として新たなタイプとして分類し、個別研究に向かおうというものです。 発表する学会は地すべり学会と応用地質学会ですが、うまくいったらわたしも引き継いで都市計画学会、あるいは一般誌へのアウトリーチにも一役買おうと思っています。この研究の隙間には防災のヒントがあるからです。

2010年6月28日月曜日

NHKスペシャル - TVをみながら突っ込み -

 今日はNHKスペシャルで、「深層崩壊が日本を襲う」という番組が放送されました。台湾で発生した深層崩壊を深く掘り下げて特集していました。それにしても台湾で発生した崩壊は、深層崩壊という言葉だけでは言い表せない規模でした。日本で言えば、稗田山大崩壊や大谷崩れに匹敵する、あるいはそれ以上の巨大崩壊ではなかったでしょうか。 番組では、京都大学防災研究所の千木良先生が、典型的な岩盤クリープであることを説明されました。長期にわたり重力変形した斜面は地層が湾曲し、それに伴って地表に亀裂、線状凹地が形成され、豪雨によって緩んだ地層・岩屑層が水の浮力によって浮き上がりすべりおちる。これら一連のメカニズムをCGを使ってわかりやすく説明されていました。

 ただ、どうしても気になるのはナレーションです。地球温暖化に伴う豪雨の増加によって発生する「新たなタイプの災害」と番組では説明していました。地球温暖化というキーワードは何回も出てきました。

 日本の災害史をひもとくと、このタイプの災害は過去何度となく発生しています。というか、このような岩盤クリープ斜面があることによって、西南日本の山岳景観が形成されました。今回紹介された台湾の巨大崩壊は、幅1km、最大深さ87mといいますから確かに巨大ですが、明治22年に発生した十津川村の豪雨災害は、天然ダムを形成する深層崩壊が群発しています(千木良先生の「群発する崩壊」では表層崩壊が扱われていますが、深層崩壊も群発することもあります)。生産土砂量の総量が、十津川豪雨災害の方が多いと思います。私は数年前、日本の深層崩壊のカタログを作成したことがありますので、”新しいタイプの災害”という言葉に違和感を覚えるわけです。

※ちなみに十津川災害については、このサイトに詳しく解説されています↓
 http://www5d.biglobe.ne.jp/~kabataf/totukawa/totukawa2/totukawasuigai2.htm

2010年6月27日日曜日

婚活日記にみるライフプランと防災

 妻が「日経WOMEN」という雑誌に【僕の婚活】という連載があります。私も婚活をした方ですが、この連載の方のように壮絶な?ものではありませんでした。
 それはさておき、その連載のなかに、マイホームなしが”吉”という記事がありました。

 http://wol.nikkeibp.co.jp/article/column/20100610/107458/?P=2
 マイホームは一生の買い物。しかも高額で値下がりや災害などのリスクもあります。買うならライフプランをしっかり固めてからでも、遅くありません

 う~ん、、こんなことを言われると、防災診断、対策が資産の維持につながるということを売り文句するのも考え物ですね。やっぱり富裕層を(それも敷地内に地すべり地形があるような)対象にするしかないかなあ(ホントにどうでもいい内容になってしまいました)

2010年6月26日土曜日

大雨を意味する言葉

 じめじめした季節になてきました。九州南部では大雨だそうです。昨今「ゲリラ豪雨」とか「バケツをひっくり返したような雨」とか、あまり実態を反映しているとは思えない言葉がはびこっているせいか「集中豪雨」という言葉を聞く事が少しながら減った気がします。
 集中豪雨という言葉が公に使用されたのは1953年8月14~15日にかけて京都府の木津川上流域で発生した雷雨性の大雨に関する、1953年8月15日の朝日新聞夕刊の報道記事だそうです(ウィキペディア)。昭和28年豪雨といえば、私のふるさとの筑後川はもとより、西日本各河川の治水の基準として使われてきましたし、両親や祖父母、社会の授業でも話を聞いてきました。集中豪雨ということばは、少なくとも前にあげた表現よりも、現象をイメージしやすいと思います。
 実は、日本の24時間雨量の記録10位までは、1950年代と1970年代に集中してます。地球温暖化という言葉が出る前です。豪雨による直接的な事故、災害も心配ですが、情報洪水による自然観の流出も相当に心配です。

2010年6月25日金曜日

記録的の真意

  九州南部では大雨の予想が出ています。「鹿児島は人が死なないと梅雨が明けない」というとても悲しい言い伝えがあるくらい、大雨が降ります。私も福岡県(柳川市)の出身で、豪雨は何度となく経験しています。
 私が懸念していることは、「記録的」という言葉が乱用されることです。アメダスの多くの地点は、観測年が1977年ですから、「新記録」は簡単に出やすい状況です。そして、私も意外だったのですが、牛山先生によれば、”斜面災害が多発するようになる日雨量200mm以上の雨量は、2008年・2009年は「記録的に少ない」”のだそうです。それでも土砂災害は起こります。それと、未だに「地球温暖化」に結び付けようという論調があります。1時間雨量の「観測史上最高値」は1982年7月の長崎大水害(長与町役場で185㎜/時間)です。第2位の記録を大きく引き離しているのです。今から28年前なのですが、だれも地球温暖化など言わなかったはずです。異常気象という言葉をすりかえてはいけないし、自然現象をもっとよく理解して伝えるべきことだけつたえるべきです。

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私が高校3年生のとき、母校のサッカー部が全国大会に出場し、いまを時めく本田選手の母校に勝ちました。その後さっぱりな、それこそ”記録的”だったんだなあと未だに信じられません。

2010年6月24日木曜日

ジオパークの情報は続々と、、

  私は高校時代ブラスバンド部に所属していました。3月に1年の集大成として市民会館のホールで定期演奏会を開いておりました。演奏会ですから結構な数のお客さんが来て頂けますし、基本的にご静聴頂いているのですが、盛り上がるところでは拍手があったり手拍子があったり、そして時折子供の泣き声がしたりと、まあにぎやかです。一方で、市民ホールですから琴や日本舞踊も催されることがあります。こちらはお客さんの数は少なく、その代わり聞く耳に長けた玄人のお客さんがほとんどです。演奏会ではなくて観賞会と呼ばれることも多いのです。
 
 なんでこんな話から始めたかというと、最近ジオパークの情報がよく入ってきますが、どうも数人の玄人にしか”受けないなあ”という印象があるからです。なんとか地域の観光に生かそうという気運は感じますけれど、、

 今のジオパーク情報は、景勝地その岩石の地球科学的解説を加えるというスタイルが殆どと思います。しかし、まさに景”勝”とあるように、地球科学への知的好奇心よりも素直に景色に対する感動に勝る解説は難しいと思います。地震予知や火山噴火の面で防災に役立つ面もアピールし、次世代へのアウトリーチも進んでいるようですが、じゃあ地質学を学ぶことで”飯が食える”という確信が持てるかというとまだ種まきの段階なのでしょう。

 京都の桂離宮は、空中写真ではっきり見える桂川の旧河道沿いに立地しています。庭園の御池は多分この旧河道の地下水位が高いので、その水を利用していると思っています(現在桂川は大きく湾曲していますが、阪急嵐山線と平行に今より直線的に流れた時期があると勝手に思っていますが)。
 ジオパークは人口密度の低い山間部でなければならいないというわけではありません。地域の歴史や文化、そして現在も景色と調和した斜面対策工法だってあるんだから、そういっところまで含めて、もうちょっとにぎやかな演奏会にしてもよいと思います。

2010年6月23日水曜日

第4世代の応用地質

 今日、私が書いた論文のに対してメールで質問を下さった方がいました。また、このブログも読んでくださっているとのこと。文面から察するに、私より一回りちょっと若い方ですが、斜面への素直で確かな観察眼のある方だとお見受けしました。ご自身の研究テーマに関しても

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私も河床の遷急点や斜面の遷急線に着目して,地すべりの発生場の特徴を地形発達史の観点から明らかにしようと研究をおこなっておりますが,その中で年代の軸を入れるということ,遷急点や遷急線の形成年代がいつなのかを明らかにすることが非常に大きな課題になっています.
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と、現在の地形学の課題に対して正面から向き合っておられることがわかります。このような方に、ブログを読んでいただいているとわかると光栄であるとともに、下手なことは書けんなあという責任感さえ感じてしまいます。

そして、このテーマは私の研究テーマでもあります。段丘を区分するように斜面の区分が出来たらどんなにか楽でしょう。

平野昌繁(1983):空中写真で見る崩壊災害とその予知のための問題点 : とくに初生的大規模崩壊の地質構造規制について,自然災害科学 Vol.2 №1 pp.19-25

は、論文の締めとして、

空中写真上で判読可能な地質構造に対応して生じた地表形態(組織地形)ならびに、地殻表層物質の運動に伴って形成された地表形態(広義の変動地形)に関する洞察力(いわば、地形学的センス)を養うことが肝要であろう

と述べています。まさに、我が意を得たりです。最近はレーザー計測により大変高精度な地形情報が得られるようにはなりましたが、往々にして木を見て(もっと言えば葉脈を見て)森を見ずになったり、コンターの精度と裏腹に除去された植生に実は斜面の動きを見る意識が薄くなったりしている間も否めません。斜面にこだわるあまり、その斜面が貝塚(1983)の段丘形成モデルにおいてどのような流域環境にあったのか、現在はもとより最終氷期の海面までの想像力も必要になってきます。

メールを下さった方の師匠は京都大学の千木良先生だと聞きました。千木良先生といえば、その著書で『社会で使える第3世代の応用地質学』という表現を用いておられます。千木良先生が第3世代なら、私たち(若く見られたいので失礼ながらメールを下さったかたと私までをひっくるめて)は、第4世代です。代々受け継がれてきた地形を見るセンスを受け継ぎながら、社会に貢献するところまでは第3世代で大分活発になってきていると思います。

しかし、この社会貢献は”事業ベース”です。ややもすすと仕分けられるかもしれません。私たちが第4世代というためには、地学を国民的関心事にする方向に持っていき、事業から産業への転換が必要なのだろうと思います。そのためには、メールを下さった方のように、しっかりとした基礎研究に裏打ちされた底力を忘れてはならないと思います。先ほど紹介した、平野(1983)がCINIIからPDFでダウンロードできる時代です(ちなみに、私はこの論文の図ー3で斜面発達史の見方に開眼しました)。情報革命によって、第1~3世代の技術に触れることが容易になってきています。今年、第四紀の定義も変わったことですし、新しく激しい世代を作っていきたいものです。

2010年6月22日火曜日

表層崩壊で検索


 先日表層崩壊に関する議論をしたので、”表層崩壊”でGoogle検索して、技術動向を調べてみようと思いました。そしたら、予測変換で”表層崩壊 マニュアル”と出てきました。私のブログを読んでいただいている方であれば、"マニュアル”という言葉をいい意味で使うことが少ないことはお分かりいただけると思います。
 実際び検索してみると、結局数値計算結果を現実をあわせることを精度とする方向の研究事例などが出てきます。しかし、土石流がおこるのは表層崩壊だけが原因ではありませんし、”典型的でない”渓流での適用はまだまだ疑問(例えば麓屑面の再崩壊、河床土砂の2次移動など)が残ります。”マニュアル”という言葉は複雑な構造を持つ現場に適用すべきでない。現場は一つ一つが別物ですから。

2010年6月21日月曜日

安全管理

 大変いたたまれないニュースが入ってきました。
 
 地すべり対策工の集水井で作業員二人死亡
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100621-00000078-mai-soci
 21日正午ごろ、長野県大鹿村鹿塩の地滑り対策工事現場で、水抜き用の井戸の中にいた建設会社の作業員3人が倒れたと119番があった。駆け付けた消防署員が3人を救出したが、2人が死亡し、1人は意識不明の重体。県警捜査1課と飯田署が原因を調べている。県警によると、井戸は地滑り対策として水抜き用に掘られ、深さ約10メートル、直径約3.5メートル。

 例えば1級土木施工管理技士試験参考書の安全管理の項目をみると、土木工事の労働災害の度数率(死傷件数/100万労働時間数)、強度率=(損失日数/労働延時間数)×1000,年千人率から始まって、作業主任者の選任を必要とする作業の一覧が掲載されています。それによると、高圧室内作業主任者(ニューマチックケーソンの安全作業)とガス溶接作業主任者が要免許、あとは技能講習修了が必要となっています。
 土木工事の死亡災害の発生状況は。墜落、建設機械、自動車、土砂崩壊などが主なもので、たとえば本足場では、鋼管の肉厚が外径の1/30以上、引っ張り強さが370N/mm2以上、手すり85㎝以上、継手金具は鋼管のたわみ量の1.5倍以下、足場の間隔桁行方向は1.85m以下など詳細にかかれています。ポータブルタイプの酸素モニターやガス検知器をつけるとか、入口から送風機で風を送るということが必要でしょうか。
 最近リスクマネジメントに関する記事を書きましたがコストとの対比という視点が殆どです。現場の安全管理とちょっと距離感があるような気がします。

2010年6月20日日曜日

法指定区域と危険

 6月といえば土砂災害防止月間でもあり、私の住む川崎もじめじめした気候が続いています。そんななか、共同通信の記事、でいわゆる災害弱者関連施設のうち、1万3千件を超える施設が土砂災害の危険箇所に指定されていて、なんらかの対策工が整備されているのは26%という内容のものがありました。
 いつも思うのですが、ここがなぜ土石流危険渓流なのか?と首を傾げることが多々あります。平成11~13年くらいに、土石流渓流調査が一斉に行われ調査カルテが作成されているのですが、そのときも同じような疑問を持ちました。一言で言えば、縮尺25000の1地形図の読図の誤りレベルのものも多数あります。また、とても小さな渓流でと家屋との標高差が7~8mある箇所について、どう考えても土石流などきそうになりところも指定されています。それは、地形図等高線が1本分(すなわち10m)あれば、確信をもってはずすのでしょうが、そうでない場合”安全側”にみてとりあえず指定しておけば有事の免罪符になるか?という考えが透けて見えます。ここで地形学・地質学を学んだ人なら、少なくとも数千年間段丘化、離水して安定していたことがすぐにわかります。
 このような箇所も含めて集計し、全体的に予算が少ない、対策ができないと頭を抱えている方もおられるのでしょうか。そこは、地質技術者の発注者リスク管理の必要性が出てくるのでしょうか。

2010年6月19日土曜日

夢がある - 斜面の発達史 -

  今日は月に1回行われる地質調査業の同業者の勉強会でした。だんだんと平均年齢が下がり、20代の人も発表がしやすい雰囲気になってきました。3題の研究発表があったのですが、そのうち2題は私が学生時代から考え続けている地形発達史や空中写真判読に関する内容でしたので、思わず議論に熱を入れてしまいました。特に、山地斜面の侵食前線に関する議論にはのめりこんでしまいました。 
  侵食前線を斜面地形の新旧を区分する指標として取り入れたのは、私の知る範囲ですが(もっと詳しい方がおられたら教えてください)、羽田野誠一氏が1970年に長崎県北松浦地すべりで侵食前線を沖積世、洪積世と分類したことや、中~硬岩の急斜面では土地条件図「神戸」の斜面分類や羽田野(1979)の砂防学会発表概要集あたりが皮切りだったと思います。その後千木良先生の風化フロントの考え方などが出てきましたが、まだ”これだあ”とひざを叩くレベルまで達していないような気がします。
  段丘地形の発達史は、堆積物が残りますのでC14年代や火山灰編年などにより研究が進んでいます。しかし、斜面の地形発達を示す痕跡は崩壊であり、”物証”が流れ去ってしまいますので、まだまだ研究を蓄積させる必要があります。発表者の方は、斜面地形の発達史の研究は”私の夢”という表現を使われました。その夢は、私も追いかけています。

2010年6月18日金曜日

南アフリカのレアメタル

 いまサッカーワールドカップの真っ最中ですが、開催国の情報として伝えられるのは治安関係が殆どです。その背景としての移民問題や格差など、経済的な背景を主体に解説されます。私は南アフリカと聞いてまずイメージするのはレアメタルです。

 東京大学の循環資源・材料プロセス工学研究室の岡部先生の資料をみれば、金やプラチナ、ロジウムなどが埋蔵量、世界シェアともに1位です。
http://www.okabe.iis.u-tokyo.ac.jp/docs/071218shiten_ronten.pdf

 ゴンドワナランドには、未知の資源が沢山ありそうです。

2010年6月17日木曜日

地質リスクに関する2冊の本

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今まで述べてきた纏を顧みて,地質・土質条件によく適応している構造物は,建設前と完成後を問わず大きな問題を生じることなく,その構造物の目的とする使命を果たしているが,一方地質や.鉱質条件を無視して,建設側のみの都合から敢えて自然に逆らって造られたものは、建設中も工事に難航し、また完成後も後々まで障害が残るように思われる。

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この文章は、池田俊雄(1999):『新編 地盤と構造物 - 地質・土質と鉄道土木 失敗と成功の軌跡』,鹿島出版会 の第17章「今後の課題」に挙げられている文章です。昨日、社長が全地連から今年出版された「地質リスクマネジメント入門」を買ってきて、これ勉強になるからと貸してくれた(持ってましたが)のですが、11年前に出版された前者の本も、考えてみれば地質リスクマネジメントそのものです。コストと対応したリスクカーブこそありませんが、「成功」「失敗」「反省」など、はっきりとした”日本語”で書かれています(”オウンゴール”よりも”自殺点”の方が、”二度とせんぞ”と強く心に刻まれるのと似ている!?)。

例えば、東海道新幹線の富士山のすそ野付近の軟弱地盤地帯において、盛土の予定を橋梁に変更した際の基礎杭の施工に関する事例では、ベノト工法の施工中にも設計荷重を下回る値で破壊沈下が生じ、最終的に高価であることを理由に採用を見送ったはずの鋼管杭を使用することになった「失敗」、そのとなりの数十m程度となりの杭ではベノト工法より簡便なアースドリル杭が用いられたが問題はなかったという「成功」。この差をもたらしたのは、溺れ谷底部の砂礫層が豊富な地下水を持つ火山砂礫層につながっていた前者と、溺れ谷中の基盤凝灰岩が台地部にあたり被圧地下水を含む滞水層が存在しなかった後者ということでした(実際は、もっと具体的に生々しく書いてあります)

一方で、「地質リスクマネジメント入門」で紹介された事例分析では、工事のプロセスにおけるリスクの種類やその所在、対応策などが細かくシナリオとして分析され、その発生確率と規模に応じた対応策などが表にまとめられています。ISOの品質管理書類に似ている印象です。いわば”どれくらい”危ないかという技術者の勘の漠然とした部分をより合理化しようという試みです(下手に定量化しない方がよいとも言えます)

いずれにせよ、基本的には地質の観察力を鍛えるよう研鑽を積むことが最大のリスク低減であるというのが、この2冊の本に共通する考え方だと思います。池田(1999)は、その先鞭をつけた基本書、全地連の本はその応用編ともいえるでしょうか。

※最後に、池田(1999)の本は、こんな文章で締めくくられています。
 在来の地質学は主として第三紀以前の古い地質を理学の対象として扱っており、一方、工学に属する土質力学は理想的な砂と粘土をベースとした理論過程により成り立っている。どちらも土木の実際現場の必要とする情報に対して不十分なところがあり、今後は第4紀地質学をベースとした応用地質学、土質工学、基礎工学ならびにトンネル工学の、より実用的な発展が強く望まれる。

 私も、麓屑面(最終氷期の周氷河作用によって形成された崖錐性の堆積物)や地すべり地形と段丘の発達関係など、第4紀後半の気候変動、地盤運動、海水準変動がとてもドラスティックであり、そのことを理解しないとわからない現場がたくさんあるなあと思うのですが、マイナー感は少なからずあるなあと思っていて、池田俊雄氏の意見に同感したのでした。

2010年6月16日水曜日

あまりに巨大、、、

こんなニュースがありました。

三峡ダム区で地質上の問題5386カ所…巨大な水圧原因
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100615-00000077-scn-cn
三峡ダム区地質災害防止作業指導事務室チーム(三峡地防弁)によると、同地区内ではがけ崩れの発生や地盤の変形など5386カ所で地質上の問題が発生していることが分かった。最大で深さ175メートルに及ぶダム湖の巨大な水圧を受け、地盤にひずみが発生していることが原因とされる。チャイナネットが報じた。
 同ダムは2008年末に、水位を最大の175メートルにする計画だった。しかし実際には172.5メートルで打ち切り。同時点で、132カ所でがけくずれなどが発生。崩れた土砂の体積は約2億立方メートルで、約2000人が緊急避難した。 
  三峡地防弁では、その後も1年当たり約6000人を投じて、調査を続行。年間平均で延べ16万1000回の調査を行った結果、がけ崩れの発生懸念など5386カ所に問題があることが分かった。
 重慶市内の雲陽県涼水井地区では2009年3月以来、川岸が長さ430メートル、体積にして400万立方メートルにわたり崩壊。長江の主要航路に土砂が崩れこむ恐れもあるとして、厳重な監視対象になった。同地区に近い村では、地盤の変動で民家が徐々に引き裂かれながら移動するなどの被害も出た。
 三峡地防弁の黄学斌副主任によると、これまでに建設されたダムの例からみて、水をためはじめてから3-5年が、土砂災害が発生しやすい時期と説明。イタリアのバイオントダムでは、貯水開始後3年目に、2600人が死亡した地すべりが発生(1963年)したとして、地質上の問題発生は、三峡ダムだけではないとの見方を示した。

バイオントダムの惨劇については、B.W.ピプキン・D.Dトンレト「環境と地質」シリーズに詳しい解説が掲載されておりました。2億m3というと、日本では稗田山大崩壊くらいです。あるいは過去の直下型地震によって形成された初生的地すべりでしょうか。いずれにしても大量の水とともに土石流化するわけです。ハザードの規模が大きすぎて想像がつきません。

2010年6月15日火曜日

カール・テルツァーギの生涯

先日ある谷埋め盛土の崩壊が起こった現場で、地盤伸縮計を設置し斜面の挙動を測ることとなりました。崩壊予測手法としては、この分野では有名な斉藤迪考先生のクリープ予測式があります。

例えば
http://www.jisuberi-kyokai.or.jp/gijyoho/gijyutu/kaiseki/houkaiyosoku/houkaiyosoku.html

その斉藤迪考先生が、土と基礎(現地盤工学会誌)に、テルツァーギの生涯を紹介されている論説があります。

斉藤迪考(1983):Terzaghi(テルツァーギ)(<小特集>土質力学の発展に貢献した人々),土と基礎31巻11号,pp.43~50

そのなかに、「信念」という章があり、次のような一節があります。

一見適切な地盤調査にも関わらず、甚だしい判断の誤りを示した事例記録を調べると、設計者が地盤探査によって得られた情報の重大な欠陥を知らなかったか、あるいは経験のないものが行った試料採取と試験によるものである。

土の問題の多くが厳密な方法で解けないのは、大きい変形または破壊を起こす範囲内にある材料が一様でないことが主な理由である。

あああ、、、耳が痛い、、、

いまは、このような論文がCINIIによって「テルツァーギ」と検索するだけで、PDFをダウンロードすることが出来ます。便利な時代ですが、大学間のネットワークを利用し2週間くらいかけて取り寄せた時代にくらべ、この文献を読みたいという執念は薄くなったのは、私が年を取ったんでしょうか。

2010年6月14日月曜日

考えよ! - なぜ日本人はリスクを冒さないのか

私は、日本人のクリエイティビティは豊かだと思っている。ユーラシア大陸の東端に位置する日本列島は、多くの地震や台風という自然災害にさらされている。そういう自然環境に置かれた小さな国に、1億人を超えるとても多くの人々が住んでいる。このような環境の元で生き残ること自体が、すでに創造的なのだ。



今日はワールドカップの日本初戦です。
サッカー談議はたくさんありますが、とりあえず自然環境にならぞえた文章があったので掲載してみました。

日本の自然はコンパクトで変化に富み、四季折々いろんな暮らし方があります。日本人は、それを余りにも当然に対応してきたので、改めて意識して発現させるのがむつかしく見えるのかもしれないですね

2010年6月13日日曜日

日本の景観 - ふるさとの原型


 最近の経済状況もあると思いますが、住まいの新築よりもリフォームを選択することも多いようです。また、先日の総理の所信表明演説でもあったように、社会保障・福祉政策に重点が移るようです。
 ただ、バリアフリーなり断熱効果なり、”そのときだけは快適な”方向に行っているのが気がかりです。日本の家屋はもともと段差が多いことから高齢者にやさしくないといった論調もあるようです。
 しかし、どうでしょうか。長い間精神的な快適さを考えるのであれば、むしろ多少しんどいことでも"鍛えること≒長生きすること”ととらえ、かつ庭があればその土地の風土に応じたリフォームがあってもいいのではないでしょうか。最近の新興住宅も、どうも画一的な”コピペ感”が否めません。樋口忠彦先生の『日本の景観 - ふるさとの原型』を読みながら、そう思ったのでした。

樋口忠彦『日本の景観 - ふるさとの原型』
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480080349/

人間はだれしも、人間の生活とまわりの環境とがしっくりと適合したときの風景を理想の風景として心の中に懐かしく抱いている。近代以降の現実の風景の激変は、二つの風景のずれを大きくしたといえるかもしれない。しかし心の中の風景に閉じこもって現実の風景を荒れるにまかせておくだけでは、私達の未来の幸福は壊されてしまう。人類は、現代以上の風景の激変を何度もくぐりぬけてきたのである。その都度、心の中の風景に耳を傾けながら、新しく美しい代償風景を生みだし、環境に適合してきたのである。p.21)

2010年6月12日土曜日

胸が熱くなる想い - 今岡さんのブログから -

人を素直に褒めたり、自然を愛でるための言葉をさがすのは、意外に難しいことです。詩人の茨木のり子さんは生前よくそのように語られていたと聞きます。

そんななか、今岡さんのブログに素敵過ぎる言葉がありました。
道徳の教科書に載せたいような話です。

働く僕らは美しいのだ
http://syunanleo.dtiblog.com/blog-entry-331.html#comments
そんな中でこのように対応いただくと、嬉しいというより胸が熱くなります。 手紙には、こう記されていました。
「…しっかり足固めした颯爽とした測量服に身を固めて測量棒を持って歩いておられるお姿を拝見いたしておりますと仕事に自信を持って働く美しさが溢れていて、やがて八十五才になろうかとする老人には、とても羨ましくさえ思われました。…」


”胸が熱くなる”で思い出しましたが、私は一昨年結婚式の最後の新郎スピーチで、吉野弘さんの祝婚歌を朗読したのですが、その一節を思い出しました。その後半部を紹介します。

正しいことを言うときは
少しひかえめにするほうがいい
正しいことを言うときは
相手を傷つけやすいものだと気付いているほうがいい
立派でありたいとか
正しくありたいとかいう
無理な緊張には色目を使わず
ゆったり ゆたかに光を浴びているほうがいい
健康で 風に吹かれながら
生きていることのなつかしさに
ふと胸が熱くなる
そんな日があってもいい
そしてなぜ胸が熱くなるのか
黙っていても二人にはわかるのであってほしい

今岡さんに手紙を送られた方は、まさにこの詩のとおりの人生を85年間送られてきたのだろうと思います。

日本には、美しい言葉や旋律がもっともっとたくさんあるはずです。日本列島をはぐぐむ森と岩清水のようにあるはずなんです。そして、地質学を基本とした仕事は、本当はその美しさの玄関口に立つ機会が多いはずなんです。理科離れや公共事業のあり方を嘆くより、清風洗心、このような言葉をいただけるようになりたいものです。

2010年6月11日金曜日

宅地開発と地盤 (5) - 水の出る場所 -

 宅地開発と地すべりの巡検報告は、まずはここで区切りをつけます。 この日は抜けるような初夏の青空でしたが、目線を下にやると擁壁の底、クラックや階段の隙間から大量の水が流れでいるところが至るところにありました。昔田んぼであり、水をあつめやすい土地だったことを何よりも雄弁に物語っています。どうも盛土部と昔の田んぼ(地山)との間から水が出てきているような感じです。普段からこんなに大量の水があるということは、”有事の際”滑落する恐れもあります。有事でなくても盛土の中身が溶脱などでスカスカになっている可能性があります。人工地盤のやはり生きているので、時間とともに変化するのです。

2010年6月10日木曜日

宅地開発と地盤(4) - 尋常でない地層 -

 前回の記事で【尋常でない地層】と言いましたが、右側の写真がその事例です。なんとこの上にきれいな新興住宅が建っているのです。土木施工の参考書などを見ていると、盛土の敷きならしや締固めに関して、トラフカビリティ(走行性)や土質に応じた締固め機械の選定などが記載されていますが、その後スレーキングして強度が落ちることまでは突っ込んでいません(スレーキングしやすい岩石の地質的背景はなおのこと、、、)。施工するその時の状態をどうするかという視点が中心で、その後の維持管理は”当面の間”にとどまっているのだろうと思います。
 泥岩のスレーキングに関しては、今日届いた地盤工学会誌の最新号(58巻6号)に、奇しくも口蹄疫で話題になっている宮崎層群に関する解説がありました。

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宮崎層群の泥岩を盛土材料とする場合、スレーキングに伴う強度低下が懸念されるため、固化材を用いた改良が実施されることが多い。しかし、掘削直後(盛土施工時)は岩塊状であることから、事前に適切な固化材添加量を求めるのは困難なことが多い。また、自然斜面や法面の崩壊等に関しても、事前に危険箇所を特定するには困難を要する。

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自然はもとより、モノは大なり小なり変化するものです。それを許容して、自分の財布と相談しながら、安心した暮らしを求めるのがベターだと思います。

2010年6月9日水曜日

宅地開発と地盤 (3) - ing -

 棚田が広がるところは本来とてものどかな里山であり、小川が流れそこに多様な生態系が発達します。棚田はひとつひとつは三日月あるいは魚の鱗のような地形となっています。そのフォルムは”曲線美”です。そこが無造作に宅地開発されるとどうなるか、、、
 この写真は、地すべり地帯のど真ん中に住宅が造成されたあと滑り出した土地の例です。案内してくれた方に話をきいたら、なんとこの駐車場、最初は水平だったんだそうです。クリノメータで傾斜をはかったら14°傾いていました。ここは地すべりの末端に位置し、押し出された結果こんな地形になりました。おそらく造成された住宅の荷重とバランスするまですべり続けるでしょう。物理現象はとても正直なんです。右の写真は”地すべりの滑落崖”がアスファルトのひび割れとして現れたものです。住民の方は、これが地すべりの痕跡だなんて思いもしなかったとのことでした。 
  無造作な開発は単純に景観や生態系だけでなく、自分たちの暮らしを支える土地の背景を考える機会、観察する場所を奪ってしまいます。観察は自然科学の基本です。理科離れの原因はこのへんにもありそうです。

2010年6月8日火曜日

宅地開発と地盤 (2)

 ここに掲げた3枚の写真は、いずれも同じ地すべり地です。海に沈む夕日が美しいところです。
 まず、左の写真。まんなかの筒のような構造物は深礎工です。所狭しと住宅が立ち並び大きな道路が通る都会のど真ん中ではあんまり見ない工法です。さらには、施工中にやはり地すべりが発生したのか、道路側からさらに地すべりを抑えるための構造物が施工されています。
 さて、この道路から急な路地を入っていった擁壁が真ん中の写真です。はらんでいてコンクリートに大きく開いたヒビが発生しています。四国の山の中の地すべり地帯で、このような道路擁壁を良く見ましたが、、、いま地震がきたらと思うと恐ろしくなります。
 そして、この地すべり地の滑落崖上部に、地すべり防止区域であることを示す看板が設置されています。都会の真ん中、しかもこの近くには(災害弱者である)幼稚園があるのです。さらにいえば、この地すべり地は昭和48年11月に動きがみられ,49年3月には移動速度6mm/時,主滑落崖の高さは2mにも達し、この地すべりの規模は,小型で,幅約50m,長さ約80m,深さ約10m、地すべり地の右側の亀裂は幼稚園の建物を横切り、 左側の亀裂は宅造地帯を横切り、多くの住宅に損害を与えた.結局4戸は取壊され,7戸が一時移転させられたという歴史があります。災害の記憶の風化を地で行く。ちょっと衝撃でした。

2010年6月7日月曜日

宅地開発と地盤 (1)

 昨日参加した宅地開発と地すべりの巡検ですが、写真が衝撃的なのでちょっと掲載を控えています。『斜面防災都市』の著者のひとりである、釜井俊孝先生も参加されました。釜井先生は、都市斜面のジ地すべりの素因をつくるロームを材料とした盛土と斜面二次堆積物(いわゆる崩積土)のことを、『尋常でない地層』と読んでおられましたが、今回の巡検の対象となった地域もスレーキングした泥岩や宅地基礎部の蛇紋岩円礫など、”尋常でない”としか言いようのないものでした。
  あるお宅では、床が沈下しはじめたため”とりあえず知り合いの土建屋さん”に頼んで杭を打ってもらったがまったくと止まらないので、地質調査会社に調査依頼を出したところ、まずは地下水を抜きましょうということに。そいたら沈下は止まらないまでも沈静化し、その杭工の10分の1の値段ですんだとのことでした。まず地盤がすべるという想像をしていなかったということでしたが、国土地理院の空中写真や開発前の地形図が入手はもとより、存在することすらしらかなかったとのことでした。まだまだアウトリーチの足りなさを感じさせられました。
  冒頭でものべましたが、今回の巡検は衝撃的でした。写真の掲載を控えるといいましたが、この記事を書いていて、伝えなければの思いに駆られたので、写真をうまく編集して何回か連載します。

2010年6月6日日曜日

住宅地盤の応用地質学的調査

  今日は住宅地盤が地すべりによって被災した現場の巡検に行ってきました。神奈川県の三浦半島には膨張性の蛇紋岩からなる地すべり地帯があり、さらにそれより強度の劣る盛土地盤の上に住宅がありますので、とても不安定な宅地地盤です(その分風光明媚ですが)。
  現在標準的に行われている宅地の地盤調査は、スウェーデン式サウンディング試験です。直径33㎜、長さ200㎜の固定式スクリューポイントを、まず100kgの重さで地中に自由沈下させ、沈下停止後に人力による回転力により貫入する。そして、ハンドルでスクリューを回転させ、1mあたり貫入するのに必要な回転数を求め、さらにこれを2倍して半回転数を求めて地盤の支持力やしまり具合を判定する試験です。
  住宅の地盤の調査といえば、京都大学防災研究所の千木良先生の論文は、興味深いものでした。未風化な還元状態にある泥岩やその盛土の上に建設された建築物の地盤が、建設後数か月から数年経過して膨脹する盤膨れ現象について、 岩石の鉱物, 化学分析と微生物に着目した分析をされました。盤膨れは岩石中の黄鉄鉱が酸化して硫酸を生成し、方解石を溶解 硫酸イオン, カルシウムイオンが生じ、 それらが 地中水とともに乾燥した床下に移動し、床下で石膏の結晶として析出しその結晶圧で盤膨れが生じ、この反応には鉄酸化細菌が関与していることが推定されたとのことです。
  土地や家を買うときに、ここまで化学的な分析をすることはないと思いますが、家屋だけではなく地盤も時間ともに風化すること、その成り立ちの原因を探り、将来どうなるかまで予測することという、地質学的な考え方を持っておくことで、土地・建物を買ったあと変状がでても冷静が対応が出来ますし、なにより予防防災が出来ます。工学的な指標も重要ですが、”そのときだけの値”である可能性が高いですので、応用地質学的調査を転ばぬ先の知恵として備えることも重要と思います。

2010年6月5日土曜日

天然の杭効果

木の根で落石を守るアコウの木(室戸岬の海食崖)

会社のサーバを整理していたらものすごい写真を見つけました。植生の持つ国土保全機能として、杭効果、根系による表土層の緊迫効果はありますが、これは説得力がありますやはり自然は定性的に、素直に事実を観察するのがいいですね。

2010年6月4日金曜日

地質から地域を見渡し水資源で地域を興す

  昨今事業仕分けなどでますます公共事業に対する視線が厳しくなり、地質リスク学会のHPにある「国民や納税者が、建設業界は、その機に乗じて過剰な利益を得ているのではないか」、との疑念を抱くようになった」というちょっと控えめすぎるのではないかと思えるような言葉も見受けられます。

  そんななか、いつもお世話になっている今岡さんのブログから、「地質から地域を見渡し水資源で地域を興す - 協和地建コンサルタント 社長が綴るブログ」というブログがあるのを知りました。

http://kyouwacc.com/blog/

  いつも思うのですが、この業界の技術者の方は自己PRが少ない。弁護士や医師などは個人のブログやHPを立ち上げ自信を持って自分の考えを主張しているし、専門分野のアウトリーチもしている。一方で、この業界はというと、公共事業を”請け負う”体制にはまりすぎて、ともすれば発注者との主従関係のなかで存在感を薄めている方もいます。

  そういう意味では、この社長さんブログのタイトルは、地質技術者の立ち位置を切れ味鋭く表していてます。目標とする技術士のスタイルでもあります。このごろ私のところには個人・民間の地盤・斜面問題の相談事が数件入ってきて、私たち地質技術者が頼りにされていることを実感できる言葉も頂戴しました。その方々の期待を裏切らないように、この社長さんのブログを生きた教科書として、勉強していきたいと思います。

2010年6月3日木曜日

続・摩擦の話

  昨日紹介した「摩擦の話」のはじめの方に、次のような文章があります。

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摩擦のような、工学や物理学や化学、材料学等々のあいだにあって、そのいずれの学問体系にも組み込まれない、いわゆる中間領域の学問においては、なによりも既存の学問体系の頭でこねまわして考える前に、すなおに事実を観察する実証的態度が大切だ
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どこかで読んだことがあるような、、と思い出したら釜井先生の「斜面防災都市」のはじめに、次のような文章がありました。

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都市の斜面災害研究の意義は、山地における斜面研究に匹敵するはずであるが、これまで都市における斜面問題を正面から扱った書籍は少なかった。それは、歴史的に斜面災害の研究が、地球科学(地質学・地形学・地球物理学)、土木工学、林学の境界領域であったからである。(途中略)。日本の斜面災害研究は、公共事業と密接に結びついて発展してきた。都市では公共事業の受益者は(土木施設ではなく)不特定多数であり、住民は税金の再配分を受けにくい立場であった。ここにも、都市の斜面災害研究に関連して、大きな裂け目が存在する。
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昨日、今日と、摩擦だ溝だ、裂け目だという言葉がニュースで踊っていますが、それこそ世間、庶民の生活、いろんな現場を”こねくりまわさず事実を観察する”力がなかったということなんでしょう。自然科学の言葉(特に地形学・地質学なんかは)が人間関係にたとえられるとき、あまりいいことはありません。そういう意味で、「摩擦の話」の本はとても素直に読めます。

2010年6月2日水曜日

摩擦の話

  先日のブログで紹介した「摩擦の話」を買ってみました。もう絶版なのでアマゾンで買いました。

斜面と防災・別記
http://blog.goo.ne.jp/geo1024/e/da25b5a4a074fffb620b0fc7da0f5c20

  なんと1971年6月の出版ですから、私が生まれる4ヶ月前の本です。しかし、シンプルで読みやい文体、スケッチ、身近な事例が盛り込まれており、それこそ摩擦なくすいすい読む事が出来ます。面白い事例としては、「もしも摩擦が存在しなかったら」という仮定で、富士山の話がありました。
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  手もとに美しい富士山の遠景の絵はがきがある。富士田の頂上付近の斜面は岩のかけらぎているから、この頂上付近の角度を絵はがきの上ではかってみると、125度ぐらいである。したがって斜面の平均の角度は28度くらいで、砂時計の実験結果とあまりち温い。
  この角度がなにできまるかは固体粒子のあいだの摩擦の問で給ある。砂や岩の堆積が内部ですべるとき、すべり面の個々の砂や岩はすべったりころがったりして複雑だるう。しがし、いますべるものと簡単に考えれ、この角度が30度くらいというのは砂や岩のかけらあいだの摩擦角にほかならないのである。とすればtan30°=0.577というのが砂や岩のだの摩擦係数の統計的平均値だということになる。
砂時計の実験から富士山の形を摩擦の問題として砂や石ころの堆積物に類似させることは、いささか秀峰富士の尊厳をきずつけるようであるが、石ころの山である以上、富士山といえどもだいたい砂時計みたいなものなのであり、こんなところに思わぬ共通原理が示されるとこるが自然科学の法則のおもしろさなのである。
  すこし話が脱線したが、要するに摩擦がなくなったらたいへんなことになる。万有引力がなくなるとか、地球が他の天体に衝突するとかいう想定に劣らない、格好のSFのテーマになろう。
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  私は地すべりや土石流の発生メカ二ズムを考えるのが仕事でもあります。この本の124ページに、金属表面の構造という図が示されていますが、これ、単位を消したらどこかの地層のスケッチといわれてもわからないなあという印象です。まだ、読みかけなので、しっかりと読んでみたい本です。

2010年6月1日火曜日

「図解雑学」シリーズ

 ナツメ社という出版社の書籍に「図解雑学」というシリーズがあります。実に271冊もあり、自然科学、社会科学、人文科学にまたがっています。講談社ブルーバックスよりは一般的で、値段もサイズもコンパクトですから良書だと思います。私はコンクリートと河川の科学を持っています。 ただ、「地震」という本はあるものの「地質」という本がありません。「異常気象」であったり「地球温暖化」はありますが、ミランコビッチサイクルや炭素循環、最終間氷期以降の海水準変動など、いわば「月刊地球」で扱ってきたような内容を手に取りやすい形であれば、いいアウトリーチになると思います。
  そこでふと考えたのは、最近私が雑誌で連載した記事をこのシリーズで出せたらいいな~なんて、、(ちょっと大それていますが)。宅地防災のための地形発達史や力学などをまとめられたら、結構実用的かもしれません。