2011年12月27日火曜日

原典からみる応用地質学-その論理と実用

近く『原典からみる応用地質学-その論理と実用』が古今書院から出版されます。上司が共同執筆者なので、ひとあし先に目を通すことが出来ました。決して安くはないし、白黒で固い印象は否めませんが、これから地質技術者を目指す大学院生、若手技術者にとっては良い本ではないでしょうか。

 http://www.kankyo-c.com/topics/topic-2.html

 私の専門である地形学にしてみれば『写真と図でみる地形学』や『羽田野誠一地形学論集』が該当するでしょうか。
 ちなみに”最近はやりの”深層崩壊について、CINIIで検索したら最も古いもので1996年でした。それ以前は「大規模崩壊」「地崩れ」「地すべり性崩壊」と表現されていましたが、論文のタイトルとして「地形学的考察」「構造規制」といった、成因を問うキーワードとして用いられていました。ことはそう単純ではないので、研究者・技術者が悩んで、そして防災のためにどう考えるか、苦心したことが分かります。最近の言葉の使われ方は記号的で、「原典の深さ」を感じさせるものが少ないように思います。

2011年12月26日月曜日

?極端気象による深層崩壊?

平成24年度の砂防学会の案内が掲載されていました。今年は東日本大震災や紀伊半島の土砂災害など、大規模な災害の多い年でした。ですから、学会として災害発生のメカニズムや今後の対策を議論したいという試みは分かります。

 http://www.jsece.or.jp/event/conf/2012/1.pdf
 
 しかるに”極端気象”とはなんでしょう。異常気象じゃだめなんでしょうか。「近年の地球温暖化に伴う極端気象により,従来より降雨強度が大きい,ないしは降雨量の大きな降雨が増加している。」という一文は、ちょっと"利”系の匂い(事業に対する”我田引水感”ともいうべきか)が強すぎます。紀伊半島の土砂災害については、このブログでも明治と平成の十津川災害として文献を猟補しましたが、科学的・客観的な事実を明らかにするという、当たり前ですが勉強になるものばかりです。

2011年12月23日金曜日

冬の青空

 地震から9ヶ月がたちます。仙台平野の津波の被災地。かつて家屋があった平野には冬の枯れ草と澄んだ青空のコントラストが印象に残ります。土地改良、廃棄物処理、復興に向かう機械音と潮騒が重なりあっていました。

2011年12月17日土曜日

夢のある話 しかし若者が、、、、

今日は「日本列島の誕生」等の著書がある平朝彦先生のご講演を聞くことができました。JAMSTECの「ちきゅう」による南海トラフの掘削が主たる内容でした。静岡県の富士川河口の土砂が、このような混濁流となって南海トラフの底を流れてはるか800km離れた四国沖まで達しているという事実を聞くと、水系砂防といっていることなどちいせえなあと、、、
 また、夢のある話と題され、日本は海洋資源大国で数百兆円の価値があるとのこと。懇親会の最後に「いち、にっ、さん、ダー」で締めをされるなど、はじけたところのある先生ですが、この夢のある話を聞いた最年少が私というところに夢に人偏をつけざるを得ない現状です。寒くなりました。

2011年12月16日金曜日

マニュアルにない凡例が、、、

今年は深層崩壊もあってか、地形判読の仕事が多くなっています(まあ、深層崩壊という言葉はあまり好きではありません。地すべり、大規模崩壊、地崩れ、いろんな言葉がありますが、鈴木隆介先生の『基岩崩落』が一番すっきりするかなあ)。
 ある方が、下河さんが作成された事例を見せてくださいというので送ったら「レベルが高いですね。でもマニュアルにない凡例が結構多いですね。今度の仕事ではマニュアルに沿ってください」このあと少し押し問答しましたが、、力が抜けました。相手の辞書に自然観という言葉がなかったように感じました。こんなことが増えてきました。

2011年12月15日木曜日

1960年代以前の空中写真

先日は1970年代半ばの空中写真の利用価値について書きましたが、いまたまたま1960年代と終戦直後に撮影された米軍写真を判読しています。1970年代の空中写真ではかなり宅地開発が進んでいて、丘陵地、いわゆる里山が急速に姿を変えています。その10数年前の空中写真では、里山はほとんど開発されていません。いかに急激な変化であったかがわかります。急激であるということは、同世代であるということなので、老朽化も加速するわけです。また、そのころの山林は荒れていました。植生が薄いので崩壊地もたくさんあります。今の空中写真を見ると、とても緑が豊かです。
 このようにいろんな時代の空中写真をみて場景・情景SURROUNDINGSを思い浮かべるのが、空中写真判読の楽しさでもあります。

2011年12月13日火曜日

「場景・情景」、 SURROUNDINGS

下山先生のブログに興味深い記事  http://blog.goo.ne.jp/gooogami/e/7073c43ef69670aa9daf3cf3e7ff4522
 日本のアニメと西欧のアニメの大きな違いは、日本のそれが「背景」を重視していることだそうです。
・西欧では、キャラクターそのものに集中し、背景は重視しない、とのこと。
・背景とは、すなわち「場景・情景」、 SURROUNDINGS にほかなりません。
・ところが、建築の世界では《西欧化》が進み、 SURROUNDINGS を考えなくなった!
・これは、「建築」の本質に悖る(もとる)ことです。私はそう思います。 

 防災もそうです。データ作成、計算が主となり、地形発達史的背景、歴史、文化に学ぶことが少なくなっています。

2011年12月11日日曜日

技術の伝承ー現場の教訓から学ぶー

地盤工学会誌59巻12号pp.53-60 技術の伝承ー現場の教訓から学ぶー上野さんの講座にはためになること、耳の痛い事がいっぱい書いてある.

警察の調査がはじまり(略)出頭する。落石の予測はできるのではないかとの問いかけにたいして「詳細な調査によって落石の危険箇所は指摘できるが、発生時期は明日か100年後になるかは計測しても十分にはわからない」と主張した(上野さんの講座から) これは、地震や豪雨、火山についても同じでは
防災科研の福囿輝旗さんの論文に「崩壊予測法の根底にあるものは最終破壊が起こる前に変形が加速度的に増加することで、火山の噴火予知や地震の発生予知に利用されている」とあったことを思い出し、ならば落石の頻度が増すことに着目して岩盤崩壊予測が可能ではないかと考えた(上野さんの講座から)

2011年12月10日土曜日

1970年代半ばの空中写真の価値

京都大学による台風12号土砂災害の調査速報に、崩壊前の空中写真が実体視できる状態で掲載されていました。

 2011年台風12号による深層崩壊の地質・地形的特徴 (速報,暫定版)-2
 http://www.slope.dpri.kyoto-u.ac.jp/mountain/reports/111122kii-disaster3.pdf

 (前にも書いたかな)この時期に撮影された空中写真は出来るだけ鮮明に、日陰を少なく、と何度も取り直されたほどなので、地形判読、植生判読にあたりストレスを感じたことはまずありません。最近は経費削減のおり”とりあえず撮影すればよい”とばかりに、縮尺は小さく実体視ができない場合も(数をすくなくするため)多い。最新のものがかならずしも利用価値が高いものではありません。そして幸か不幸か1970年代半は、それなりに植生が薄いので地形がよく見えます。航空レーザー計測の地形解析力は確かに革命的ですが、やはり空中写真の俯瞰力にはかないません。木と森をバランスよく見るには、1970年代半ばの空中写真がいちばんです。

2011年12月7日水曜日

台風12号のつめ跡

2011年の台風12号による被害は、紀伊半島の深層崩壊がクローズアップされがちですが、実はこまかいところを入れるとずいぶん多いことがわかります。長い時間強風が吹き続けましたので、大木が根こそぎ倒れ表層崩壊を誘発しているのです。いま、静岡県の現場に来ていますが、そんなことを感じています。

2011年12月4日日曜日

浜離宮にて

 横浜国立大学の宮脇先生の著作に「浜離宮、芝離宮でも今から250年前にタブが植えられましたが、150回も起こったといわれている江戸の火事にも、関東大震災や第二次大戦の焼夷弾の雨にも生き残って」という記載があります。もう定量的な説明なくとも、この堂々として優しい佇まいをみれば分かります。”みどりの~”という言葉には(私だけかも知れませんが)いまひとつ産業化されていない木がするし、市民ボランティアで、、という雰囲気があるように感じます。が、これもプロの仕事であり、自然の成立過程を科学的に知っておく必要があると思います。”建設物価”や”安定計算”にはのらないのかもしれませんが、、、、、、

2011年12月2日金曜日

地理学会らしい成果

日本地理学会が「2011年3月11日東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災マップ」を作成していますが、これが実に丁寧で、手書きの味がする。色鉛筆をもって、手を汚して、現象を綿密に描写する、地理屋の原点を見た気がしました。
  岬や入り江のひとつひとつまで、津波の到達範囲が詳らかに描写されています。多くの学生さんも携わったようですが、CADやGISからはじめるのではなく、自分の手で意図を持って描写することを実体験したことは今後実務で底力になりますから、とても良い経験ができたのではないでしょうか。

日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チーム
http://danso.env.nagoya-u.ac.jp/20110311/map/index.html

2011年12月1日木曜日

表層崩壊の歴史的背景

砂防学会誌Vol64,№4に、以下の論文がありました。

 大丸裕武ほか(2011):2009年に山口県防府市周辺で発生した崩壊の歴史的背景,Vol64,№4,pp.52-55

 「地形発達史」や「地質的」背景といったタイトルはよくみかけるのですが、「歴史的」という人間活動の所産であることが伺えるタイトルに新鮮な印象を持ったのでを通してみました。そしたら、結論(推論)としては、やはり現在の豪雨災害で、崩壊しているのは近世の山への火入れによる黒ボク土が不透水層となっていいたのではないかということでした。
 人文地理の授業で千葉徳爾先生の名著「はげ山の文化」や、赤木・貞方両先生による鉄穴流しによる中国山地の地形改変の論文はよく読みました。実務で渓流調査をするようになり、渓床堆積物の多くは「歴史的所産」ではないかという予感はありましたが、このような実証的研究はあまり多くないと思います。東日本大震災以前の災害の記憶が薄れがちですが、このような地道な研究の積み重ねは重要なことです。