2013年4月27日土曜日

やっと妥当な見解

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130426/k10014227681000.html 浜松市の山沿いで発生した地すべりについて土砂災害の専門家は、現場を流れる川が、長い年月をかけて斜面の下の土砂を削ったため、斜面全体が不安定になっていたと分析し、今回広い範囲に拡大した背景に地形が大きく影響していると指摘しています

このため地形図を分析したところ、地すべりが起きている斜面のちょうど下に川が流れていて斜面の下の土砂が削りとられやすい地形でした。

さらに国土地理院が昭和51年に上空から撮影した現場付近の写真で斜面の下の土砂が削れて崩れた痕跡を確認できたということです。
このため池谷特任教授は、「川の流れで長い年月をかけて斜面の下の土砂が削られていって、斜面全体が不安定になり、地すべりが発生したと考えられる」と述べ、今回広い範囲に拡大した背景に地形が大きく影響していると指摘しています。

そのうえで、「地形の特性から崩れやすい状態が続く可能性があり、土砂を取り除くか、杭を打つなど対策工事を行う必要がある」と指摘しています。

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先日このブログに書いたコメントと同じ、判読しておられる空中写真も同じでした。南海地震や富士山噴火と結び付けようとする妙な報道もありましたが、とても妥当な見解です。そして、災害面だけが報道されますが、地すべり地形のもたらす恩恵もいっぱいあるのです。

2013年4月25日木曜日

見解は分かれるのが普通 - 応用地形判読士の試験も??

 今回の浜松の地すべりは、防災科学技術研究所の地すべり地形分布図に掲載されていませんでした。段丘かどうか微妙ですし、広域的にみれば(ケスタと言えば大げさですが)組織地形の可能性も捨てきれないと思うし、古期地すべり地形末端かつ攻撃斜面に該当していた部分が滑動を始めたいうのが妥当でしょう

 で、もしこの地すべり(じゃなくで崩落)地周辺を応用地形判読士の問題に出したら、いくら攻撃斜面で末端崩壊があったとはいえ、「考えられる災害」として抽出するのは難しいのではないでしょうか。空中写真判読は個人差があるのが「デメリット」として語られることも多いのですが、見解は分かれるのが普通です。

地すべりの対策工

 浜松市天竜市の地すべりですが、牛山先生の現地調査報告やブログなどから情報がはいってきました。実際には破砕された泥岩や頁岩の混在岩からなる斜面が、脚部侵食により応力が解放さた状態にあって発生した深層崩壊といったところでしょうか。
 ところで、地すべり防止区域だったこともあってか、集水井が施工されていました。一見すれば段丘のような(段丘かもしれませんが)平坦な地形場において、集水井?という違和感があります。
【集水井によって防止できるのも、すべり面直上にある地下水頭を下げることが可能な場合だけであって、井戸の中に横ボーリングを行って、移動層のなかにある地下水をどんなに多量に井戸のなかに出たとしても防止効果には無関係である。したがって、集水井から行う横ボーリングは、すべり面直上の透水層にそって行うべきであり、中間の地下水をわざわざ抜くことはない。中間水を抜くことは川水を井戸のなかへ流入させることと結果的に同じことである】

高野秀夫『斜面と防災・別記』

2013年4月24日水曜日

浜松市天竜区の地すべり

これから調査が進んでいくことと思われますが、私的な感想を述べます

・過去の空中写真(1976)では攻撃斜面側の表層崩壊があって、脚部は長らく不安定な状態にあったのではないか。
・防災科学技術研究所の地すべり地形分布図には示されていない。広域的な判読では、組織地形のようにも見えるが、古い(後期更新世)地すべり地形と考えた方が妥当と思う。
・地すべりというか深層崩壊というか、微妙なところ
・河道閉塞が発生しているが、大局的には蛇行区間であり直上流は欠床谷も見られるため、決壊しても”土石流”状態にはならない。報道によると仮排水路ができたようですが、この現場力・対応力は本当にすばらしいと思います。
・そして、地すべり前兆地形としてのクラックを”検出”した、整然とした茶畑。これも日本の里山の美しさで素晴らしいところです。

2013年4月18日木曜日

いつかビッグになって

 4月も3週目が終わろうとしています。今年は4月1日が月曜日ですから、新人さんにとってはスタートがきりやすかったのではないでしょうか。

 私が新人として入社した会社は、1ヶ月も研修期間がありました(あとでこの時期は仕事がないからということを聞かされましたが、、、、)。環境アセスメントや黒表紙の報告書、基準書、白書をよんで、現場で測ってきたデータは「国が定めた基準値いかなので問題ない」と淡々と述べて効率よく仕事をこなすんだ。自分の専門的な眼力・判断で報告書を書いたり事業をコントロールすることは理想で、楽しいものだが、そのようなチャンスはほんの数%だ、その割合が高いと幸せな技術者生活だといえる といわれたことを、今でも覚えています

 話はガラッとかわりますが、私の同級生が銀座でマッサージ店を経営していました。http://blue-t.jimdo.com/ 彼のブログに母親に地元に帰らないか?ときかれ、そのうちビッグになってかえる→ビッグとはなにか→九州支店を出せるほどに利益を稼ぐことだ(ブログではもっとほのぼのと書かれていますよ)。とあります。彼の仕事の成果は、お客さんが健康で快適な体になることですからとても分かりやすい。引き換え私の仕事は実力が目に見える形にならないことも多く、豪雨や地震時にあまり動かない成果品がいいともいえるので本質的に目立ちません。
 長谷川町子さんは、他人の職業がうらやましくなったときがスランプということをご自身の漫画で書かれていた記憶がありますが、時々そうなることがあります。ですが、上記の”ほんの数%”が昔よりはあがっていると思うし、それを下の世代にもクールに見せていくことが、最大の新人研修になるのでしょう。自分はまだまだ小せえ、、、

2013年4月17日水曜日

2013年4月13日淡路島地震でおもうこと

 2013年4月13日に淡路島で地震が発生しました。震度6弱という報道でしたので、大きな被害がでたのではないかとも思いましたが、震度のわりには被害は少なかったようです。

 さて、”未知の断層”ということでしたので、文献を調べてみました。
 東部瀬戸内堆積区の形成と淡路島の隆起,地学雑誌Vol90№6
 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/90/6/90_6_393/_pdf

 この文献の図にも今回の震源、余震分布に対応するリニアメントは掲載されていません。空中写真を判読すると、河川の侵食ではありえない直線構造があることはあるといったところです。花崗岩類の周辺に軟質な堆積岩が分布しており、地すべりによる棚田も広い範囲で形成されていますので、これを活断層として抽出するのはちょっと無理だと思います。

 地表に崖がよく現れていないところで地震が発生したのは、もちろん今回が初めてではありません。2000年鳥取地震、2005年福岡県沖、2007年能登半島、2008年岩手宮城県内陸地震など、、、 とはいえ、”未知”いうとランダムに発生するという印象を与えかねませんが、力の伝わりやすい弱線はあると思います。

2013年4月14日日曜日

「間抜けの構造」を読んでみました

 映画でも3Dがはやっているけど、これも奥行きという”間”を埋めちゃうことになる。立体を具体的に説明しようとして、かえって立体的に感じなくなる。本物というか現実に近けりゃ近いほど、粗も見えてくる。平面だったら想像力が働くけど、3Dだとそれをそいでしまう。やっぱりある程度"間”がないとダメなんだけど、なんか人間というのは、技術の進歩とともにその"間”を埋めようとする。

ビートたけしさんの「間抜けの構造」という書籍の一節です。

 私の専門とするところの地形分類図では、1986年に行われた東北地理学会シンポジウムで、”土地条件図は食い合わせの悪い詰め込み弁当”といわれましたが、これも間を埋め尽くそうとした結果なのでしょう。航空レーザー計測図も、あまりに詳しすぎてみているだけで地形解析の目的を達したような気分になってしまって、考察を入れる"間”を埋め尽くしているという一面もあります。羽田野誠一さんは、地形の質的構成がひと目でわかり、使うひとに”感動と実益”を与えるものでなければならないと仰っていますが、良い間合いで必要な情報が精度よく描写されていることを求められているということでしょう。
 ビートたけしさんの本でも、「こうやれば客は笑うというマニュアル的なアプローチとは逆で、やてみてから「今のはだめだった、今のはけっこういけたな、と実践を積み重ねるなかで自分で考えていくしかない」とありますが、我々の仕事でも同じことがいえます。

2013年4月12日金曜日

応用地形判読士の試験の背景

 応用地形判読士に合格した方に話を聞くことができました。その方は、判読図の作成とそのコメントを作成するにあたって、与えられた時間が2時間というのはいかにもきついということをおっしゃっていました。確かに模擬問題をみていて、できんことはないかなとは思ってましたが、2時間となるとやはりきついですね。
 合格率が低下したもうひとつの要因は、低地の地形分類は得意でも山地は。。あるいはその逆、、といったことではないかという話もでました。この資格が生かせる業務(発注要件にはなっていないようですが)として道路防災点検が紹介されていますが、やはり斜面がメインで、平野部の旧河道や支谷閉塞低地における盛土の沈下などに関する地形との関係は、影が薄いような気がします。

2013年4月10日水曜日

デジャヴ - 春の嵐に崩壊した擁壁

以前上司がテレビ番組に出演し、このようにはらみ出したよう壁は崩壊しやすい、と指差した斜面が、先日の爆弾低気圧に伴う豪雨によって崩壊してしまいました。ここが危険と言った箇所に限って隣が崩れるといったことは、技術者の間でよくある話ですが、ストライクはなかなかありません。人的被害がなかったのでまずはよかったともいえますが、このように老朽化したよう壁は無限にあるため、公助を待ちきれないという事情も多いでしょう。

2013年4月3日水曜日

お手本とマニュアル

  最近「美文字」なる本や言葉がはやっています。確か火曜日の夜の番組だったと思いますが、、先生のお手本をみて、有名人がいかに整った(整ったと美しいは同義だと思います)文字を書けるかということを点数化して競うのです。
 このように、お手本とは普通のレベルを超えたところにあって、ちょっと真似できんなというものであるべきだと思います。ただそうすると”みんなができない”ので、公共事業の多い防災関連業務は発注しにくいのでしょう。
 こうなると、最低限コレだけは、という指針(マニュアル)が出てきます。
 私が携わる仕事では、災害地形判読図、ルートマップ、地表地質踏査結果図、といったものが成果品になります。最近では、建設技術者のための地形判読演習帳(初級~上級まで)なるものもありますが、いまのところ圧倒されるのは『羽田野誠一地形学論集』と鈴木隆介先生の地形図読図入門(入門といってもこれだけ内容が充実していると辞書みたいなものです)だけです。
 美文字のよさは、手書きにあり五感を直接使って判断力が鍛えられるところです。図面もそうです。数値計算の前に手書きを一度はやるべきです。

2013年4月2日火曜日

土検棒の手ざわり感の信頼

 同業者からたまに聞く言葉で、「今後の課題は現地調査」、「現位置試験との対比」があります。これは指針に掲載された土質数値を入力した値を使って計算した土砂移動の解析結果に対する、漠然とした不安感があります。人間の感覚の7割は視覚とも言われますが、医療のCTスキャンや内視鏡などの技術は、みえる化するための技術です。技術士補や土木施工管理技士の試験で、最初の方に出で来る土の状態変化とコンシステンシーの状態の説明でも、液性はコンソメスープ状、塑性態は適当な硬さのバター状、半固結はバター状、固態はビスケット状など、手ざわりの感覚で解説されます。
 土検棒も同じような信頼できる手ざわり感があります。地中は最も見えにくい現象のひとつですが、できるだけ近そうな値で計算するよりは、その場での五感の方がたよりになります。特に、土検棒で表土層の厚さを調べるときは、その絶妙な感覚にいつも驚きます。