2013年6月30日日曜日

三保の松原

 三保の松原が世界遺産に登録されました。観光客も増えて警備員も増員するのだとか。もちろん富士山の見え方とセットなのですが、灯台下暗しとならないよう、三保の松原の地形・表層物質がどのようなものか、文献を調べてみました。

吉河秀郎・ 根元謙次(2008):静岡県清水海岸沖の表層 堆積層の分布 と土砂移動の変遷史
海岸工学論文集,第55巻,土木学会,601-605
http://library.jsce.or.jp/jsce/open/00008/2008/55-0601.pdf

usa_hakaseのツイッター(ユーエスエーではありません)
http://togetter.com/li/498350

 報道レベルでは、あまり安倍川からの土砂供給について言及されません。吉河・根元(2008)は、海底の音波探査結果やト レンチ調査、年代測定結果から、S3層最上部は台風の暴浪時より大き

な営力を持っ海岸から沖方向へのマスムーブメン トによって形成 された、その時期は西暦1730~1810年頃と推定されるとしています。
 それは、1707年の宝永地震とその津波、富士山噴火、安部川源流の大谷崩れによる大量土砂供給という一大イベントを意味します。三保の松原の土台はこのような、富士山そのものの形成過程と密接に関わる自然現象によって形成されているのです。
 そして、砂防や治山工事、砂利採取によって、土砂供給が減り、海岸侵食が始まり、『景観』で部物議をかもす消波ブロックの造成へと繋がっていきます。
 三保の松原は文化的価値だけでなく、地形・地質遺産の意味合いからも、防災・環境保全を考える必要があります。

2013年6月12日水曜日

DJポリスと斜面防災

 ワールドカップ予選後の渋谷の混乱を治めた”DJポリス”が話題になっています。ソフトな語り口で興奮する人々を巧みに誘導して、交通を整理したというものです。まさに、北風より太陽の方法といった感じです。全体を力で押さえつけようとすると相応の反発がかかり、バリケードや機動隊などの”ハード対策”をとらざるを得なかったでしょう。
 ひるがえって、斜面防災対策はどうでしょうか。呼びかける前に暴徒化してしまった箇所に豪華なバリケードを造成することが未だにメインとなっています。また、ソフト対策といえば警戒・避難のことであり、”暴徒化する土砂(そのきっかけは暴徒化した間隙水圧)をうまく誘導しようという発想での対策がとられた箇所は、あるとは思いますが、まだ主役にはなっていません。

2013年6月10日月曜日

和歌山県の群発地震

 先ごろ和歌山県で震度2~4程度の地震が数回発生しました。1995年の兵庫県南部地震の場合は、2ヶ月前に猪名川街周辺で群発地震がありました。それにならぞえる訳ではないですが、和歌山には中央構造線があります。あまり想像したくありませんが、、、

2013年6月6日木曜日

扇状地の定義

 埼玉大学の斉藤享治先生は、扇状地研究の第一人者です。私も地形屋として、砂防屋として、扇状地を理解することは土砂災害の軽減はもとより、変動と湿潤の相克する場所なのでドラマチックなのです。
 それにしてもCINIIIで斎藤先生のお名前で検索すると、「扇状地」の文字が入らない論文を探すのが難しい。国内外のいろんな扇状地を研究されています。ひとつの地形種(地形場?)で、これほど濃密なご研究を続けておられる先生も稀有だと思います。

扇状地の規模に関する研究動向 : どんなに大きくても扇状地?
http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/detail.php?id=A1002048

 上記の論文は、私達が日常用いている沖積錐、崖錐、扇状地、土石流など、いかに曖昧に用いていたかを反省させられました。周辺山地の地殻変動や堆積場としての平野の沈降、規模の違う土石流、扇状地の合成、土砂運搬形態の変化、総合科学の知識の堆積場でもあります。

2013年6月5日水曜日

いつのまにか50000

 当ブログのページビューの合計がいつの間にか50000を超えていました。ほんとに、しょーもないことばかりなのに感謝です。よく分からないは、約50000のうち7000くらいは海外なのです。しかもラトビア、ウクライナなど、あまり日本人の方がいらっしゃらないであろう国からのアクセスも3桁あります。なぜか南半球は全然ありません。わからんところですが、感謝です。

2013年6月4日火曜日

地理評から地形学の論説が消えた

 最近の地理学評論は自然地理学の論文が少ないので学会費半分でええかいな?ある先生からこんな冗談が聞こえてきました。気になったので少し調べてみたら、2012年の地理評から地形学関連の論説が消えておりました。日本地理学会は、東北地方太平洋沖地震で生じた津波の浸水範囲を明らかにしたという大功績はありますが、活断層学会など専門分化がすすんだせいか、自然地理学の論文が少なくなるのは、日本地理学会の特徴が半分消えてしまうようで寂しい感じがします。

2013年6月3日月曜日

新しい年代測定法

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130603-00000017-mai-sctch
 遺跡や遺物の年代を、樹種を問わず、少量の試料で測定できる画期的な木材の年代測定法を、名古屋大大学院環境学研究科の中塚武教授(気候学)が考案した。1年単位の高精度で安く短時間に、年代測定ができるという。論争が続く弥生や古墳時代の開始時期など、考古学や歴史学に多大な影響を与えそうだ。7月に開かれる日本文化財科学会の年次大会で発表される。

災害史も明らかにできるでしょうか。

2013年6月2日日曜日

「論文」と「報告」

 木村 学(2013):『地質学の自然観』,東京大学出版会 を読んでみました。私が学生だったころは、もうプレートテクトニクス理論がある程度定着していましたので、地球科学のパラダイムがドラスッティックに動いていた時期、大論争期を知りません。この本を読んで、そのころの熱が伝わってきました(会話調でよみやすい)

 さて、最後に「これから論文を書こうとする若い読者のために」という”付録”があります。そのなかで、日本の論文と海外の論文ではタイトルのつけ方が違うという指摘がありました。日本の地質学雑誌では「○○地域の、、、」「○○の発見、、、」「○○の研究」というタイトルが多いが、海外ではこのような言葉を省いた、一般的な事項で中身をストレートに反映した言葉が書かれているということなのです。私の師匠は、君の論文は報告の域を出ていないという言葉をよく使われましたが、にたような意味かも知れません。そういえば地理学でも「○○地域の、、、」で始まる論文がとても多いですね。

2013年6月1日土曜日

マンションの広告にみる”地すべり”

 消費税が上がる前にマンションを買いましょう!!とあおるチラシが最近良く入ります。今日の広告には、”今が買いどき”である理由として、低水準の住宅ローン金利があげられていました。1984年からのグラフが掲載されているのですが、90~91年のバブル絶頂期から95年にかけての落ち方、その後の微起伏で推移するグラフを見ていると、まるで地すべり(特に2008年の岩手宮城内陸地震荒砥沢地すべり)の断面のように見えました(もちろん、そのグラフの縦横比にもよります)。もうすぐ消費増税という降雨が来るからその前の水抜きを、といったところでしょうか