2010年7月5日月曜日

地すべり学

 衣替え以前のブログにコメントを寄せてくださった方がおられました。7月ごろにUPした記事なので、失礼ながら思い出すのに時間がかかってしまいました。新潟のお住まいの布施さんという方で、地すべり防止工事に長らく携わっておられた方のようです。新潟県といえば地すべりのメッカで、多くの研究が蓄積されていますが、地すべり研究に関する個人のHPを開設され、メインのタグに「地形発達史」があるサイトは初めて見ました。

 地すべり http://www016.upp.so-net.ne.jp/landslide/index.html

 私も地すべり地形の発達史に関する論文を書いています(PDFの画像が粗いので、私の論文を使ったwebサイトを紹介します)。 http://www.kankyo-c.com/lanslide.html

 そして、布施さんのHPに、注目すべき論文を見つけました。

十日町市水梨地すべり地の地形発達史と地すべり―地すべりの集中発生時期―
http://www016.upp.so-net.ne.jp/landslide/mizunasi.pdf
調査地や周辺地域では、多雨・豪雪という小氷河期の気候が、地すべりが発生するための内的条件である岩盤の風化を促進し、同時に外的条件つまり契機としての地下水位の上昇をもたらした。そのために、小氷河期に地すべりが集中的に発生したのであった。小氷河期の後も、岩盤等の風化が進行した。それと共に、以前には地すべりが発生する契機にはなり得なかった程度の地下水位であっても、契機になり得るようになった。その結果、小氷河期に続いて後小氷河期にも、多くの地すべりが発生したのである。

 地すべりの多発期といえば、私のなかでは最終氷期が終わるころの温暖化がメインであると思っていました。そして、私の論文では、大規模な(初生的)地すべりの輪郭は直下型地震で形成され、そのなかで細分化が始まる(私の会社の上司は、四国中央構造線から離れるに従い地すべりブロックの輪郭が小さくなっていく、すなわち直下型地震の震源に近いところに大きな地すべり地形があることを論じおています)。

 その点では、布施さんのご研究は示唆に富むと思いました。小氷期あたりは地すべりに関する言い伝え、伝承・伝説も少なくありませんが、それに地形発達史的な裏づけができれば面白いと思います。そして、日本の里山の風景を作る地すべりは、第四紀後半の気候変動・海水準変動・地殻変動に対する情報の宝庫であることを物語っているのです。

3 件のコメント:

  1.  ブログを衣替えしておられたのは気が付きませんでした。よけいな気遣いをさせてしまい、申し訳けありません。

     御著の「地すべり地形発達史」に関する論文を詳しく拝見しました。ありがとうございます。地すべり地形は氷河期からの悠久ともいえる長い時間をかけているのですね。

     ところで、拝見していくつかの疑問や観点の違いなどを感じました。長くなるとコメントとは言えなくなりそうですので、要点だけにします。
    1 観点の違い:下河さんのは「地すべり地形」発達史であり、私のは、地すべり地を含めたその地域全体の、古河川の変遷を中心にした「地形」発達史です。その中で、地すべりの発生・発展・消滅の過程を対象にしています。
    2 地すべり地形:馬蹄形の急崖とその麓に広がる緩斜面、それを一般に地すべり地形と言っていますが、それらの多くは古河川の跡である可能性があります。布施弘(2001):松代町東部地域の河成地形…、新潟応用地質研究会誌、no.57、pp.25-32 (申し訳ありませんが、電子化しておりません。)
     上記2点から、地すべり地と非地すべり地とを峻別し、地すべりの発生時期を確認しております。

     私の知る限りの里山の現風景は、古くても縄文期以降、新しければ、鎌倉・江戸時代以降のものでした。それらは古河川がつくったものでした。しかし、地域によっては、第四紀後半の諸変動に基づいた里山があるのは確かでしょう。それを見つけるのを、今後の楽しみのひとつにしております。

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  2. まず、1.観点の違いについでですが、

    高浜信行(2009):地質学からみた地盤災害,地盤工学会誌57巻2号,pp.8-9 (CINIIで検索してPDFをダウンロードできます)

    の記されている、虫亀や東野名地すべり(上記論文では、古期巨大地すべり、親地すべり等と表記されています)といった『地すべり地形』いつからあるのか、それにしてもあのように大きな規模の地すべりが、融雪や豪雨の作用だけではできないのではないか、そのことを2004年新潟県中越地震、2008年岩手・宮城内陸地震は物語ったのではないかということが、論文執筆の発端になりました。

    2.地すべりの多くは古い河川である
     十日町や頚城丘陵のように泥岩質でかつ雪の多い環境では、仰るように地形変化はもっと早いと思っています。そういう意味でも、布施さんの諸論文はとても価値が高いと思っています(全国誌へもっと投稿されてもよいのでは?と思ったのですが)

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