2010年7月20日火曜日

常世の樹

 あのかつらの大樹の梢から、無数の川が音を立てて流れくだり、九州脊梁山系の胎中にある見えない鍾乳洞へ流れ込んでゆく幻聴が、わたしの耳の中に起った。樹は川の源流である。

 これは石牟礼道子さんが、大分県檜原山に訪れた際、『常世の樹』という作品に記された文章です。『常世の樹』を直接読んだわけではなく、最近出版された『不知火』のなかの解説文から引用しました。

 檜原山といえば、本耶馬溪のある山国川の上流域なのだろうと思います。耶馬溪火砕流は,約100万年前、九重山北方にある埋没し た猪牟田カルデラを噴出源とすることがわかっています。石牟礼産の詩文コレクション『渚』のうち、「海はまだ光り」というエッセイの中で、”人間の上を流れる時間のことも、地質学の時間のようにいつかは眺められるような日が、くるのだろうか”と述べられています。最近は20年~30年の時間スケールで起った経済災害の話しばかりで、世知辛い。たまには、このような深遠な感性の持ち主の文章に触れることも新鮮です。

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