2010年6月17日木曜日

地質リスクに関する2冊の本

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今まで述べてきた纏を顧みて,地質・土質条件によく適応している構造物は,建設前と完成後を問わず大きな問題を生じることなく,その構造物の目的とする使命を果たしているが,一方地質や.鉱質条件を無視して,建設側のみの都合から敢えて自然に逆らって造られたものは、建設中も工事に難航し、また完成後も後々まで障害が残るように思われる。

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この文章は、池田俊雄(1999):『新編 地盤と構造物 - 地質・土質と鉄道土木 失敗と成功の軌跡』,鹿島出版会 の第17章「今後の課題」に挙げられている文章です。昨日、社長が全地連から今年出版された「地質リスクマネジメント入門」を買ってきて、これ勉強になるからと貸してくれた(持ってましたが)のですが、11年前に出版された前者の本も、考えてみれば地質リスクマネジメントそのものです。コストと対応したリスクカーブこそありませんが、「成功」「失敗」「反省」など、はっきりとした”日本語”で書かれています(”オウンゴール”よりも”自殺点”の方が、”二度とせんぞ”と強く心に刻まれるのと似ている!?)。

例えば、東海道新幹線の富士山のすそ野付近の軟弱地盤地帯において、盛土の予定を橋梁に変更した際の基礎杭の施工に関する事例では、ベノト工法の施工中にも設計荷重を下回る値で破壊沈下が生じ、最終的に高価であることを理由に採用を見送ったはずの鋼管杭を使用することになった「失敗」、そのとなりの数十m程度となりの杭ではベノト工法より簡便なアースドリル杭が用いられたが問題はなかったという「成功」。この差をもたらしたのは、溺れ谷底部の砂礫層が豊富な地下水を持つ火山砂礫層につながっていた前者と、溺れ谷中の基盤凝灰岩が台地部にあたり被圧地下水を含む滞水層が存在しなかった後者ということでした(実際は、もっと具体的に生々しく書いてあります)

一方で、「地質リスクマネジメント入門」で紹介された事例分析では、工事のプロセスにおけるリスクの種類やその所在、対応策などが細かくシナリオとして分析され、その発生確率と規模に応じた対応策などが表にまとめられています。ISOの品質管理書類に似ている印象です。いわば”どれくらい”危ないかという技術者の勘の漠然とした部分をより合理化しようという試みです(下手に定量化しない方がよいとも言えます)

いずれにせよ、基本的には地質の観察力を鍛えるよう研鑽を積むことが最大のリスク低減であるというのが、この2冊の本に共通する考え方だと思います。池田(1999)は、その先鞭をつけた基本書、全地連の本はその応用編ともいえるでしょうか。

※最後に、池田(1999)の本は、こんな文章で締めくくられています。
 在来の地質学は主として第三紀以前の古い地質を理学の対象として扱っており、一方、工学に属する土質力学は理想的な砂と粘土をベースとした理論過程により成り立っている。どちらも土木の実際現場の必要とする情報に対して不十分なところがあり、今後は第4紀地質学をベースとした応用地質学、土質工学、基礎工学ならびにトンネル工学の、より実用的な発展が強く望まれる。

 私も、麓屑面(最終氷期の周氷河作用によって形成された崖錐性の堆積物)や地すべり地形と段丘の発達関係など、第4紀後半の気候変動、地盤運動、海水準変動がとてもドラスティックであり、そのことを理解しないとわからない現場がたくさんあるなあと思うのですが、マイナー感は少なからずあるなあと思っていて、池田俊雄氏の意見に同感したのでした。

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