2011年10月11日火曜日

空中写真判読が受け入れられなかった理由

 地すべり学会誌の最新号に、千木良先生の巻頭文がありました。そのなかで、遷急線の判読はもっぱら空中写真判読によるもので、調査者の主観的な判断であるため、広く受け入れられない面もあったのではないかということが書いてありました。このことは、私もさんざん言われてきたことです。千木良先生の論文では、航空レーザー測量による高精度地形図は地形の見方、自然観をも変えてしまうほどの効果があるとして、斜面地形発達史の痕跡としての遷急線の把握が説得力のあるものになると述べられています。
 2004年の中越地震や2008年岩手・宮城内陸地震で、中縮尺(2.5~5万分の1)でも容易に判読できるような巨大な地すべりブロックが形成される地形変化のひとコマを”目の当たり”にしました。今回の紀伊半島の土砂災害では、羽田野誠一さんが昭和28年の有田川災害以来ずっと主張してきた、遷急線と斜面地形との関連が、航空レーザー測量によって”目の当たり”になると思います。羽田野さんは、段丘面と同じく斜面にもいわゆる”立川期、下末吉期”といった境界線が存在するはずだ、と主張されたいたと聞いたことがあります。それは、何百枚もの空中写真をならべ、多くのきな時間を割いて作成された微地形判読で、まさに職人芸でした。
 しかし、羽田野さんは職人気質すぎたのか、妥協をゆるさなかったので論文や成果品としての完成形が残っていません。
 いつのまにか、羽田野誠一さんの話になってしまいましたが、航空レーザー地形図を用いた判読も、多くの時間と職人芸が必要とされる”主観的”な成果品です。等高線が精密であるだけに、判読できる情報量が膨大であり、調査者の判読も精緻でなければ意味がありません。だから時間もかかります。
 この”ある程度の時間とそれに関わる人件費(インセンティブ)”をきちんと見立てていくことが、”主観的な判断”がひろく受け入れられる理由になるのではないでしょうか。

1 件のコメント:

  1. 航空機を低空で飛ばしてレーザー測定する手法で海岸の砂浜の地形変化(季節、経年)を広範囲に観測する事業がアメリカで進められていることを知りました。

    砂浜地形、砂の「堆積と侵食」による移動は嵐の波浪で一気に起こり、海岸景観が一変するほどです。ところが、一般人がたまに海岸を見るとそのような変化の実態に気がつかないので、この手法による観測データの可視化によって時系列の変化を説明できると思います。

    斜面の崩壊による変化でも同様な観測データを増やせば誰でも見えてくる(わかる)ようになるのではないでしょうか。

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