2011年5月29日日曜日

水力開発=利用の歴史地理

1週間ぶりのブログ更新です。
福島原発の事故を受け、エネルギーのあり方が再考されています。昨日の日本テレビの朝の番組では、水車を使った小電力発電が取り上げられていました。これをみて思い出したことがあります。私の母校の末尾至行先生(現在は退官されました)が、『水力開発-利用の歴史地理』という論考を出されていることです。

http://www.journalarchive.jst.go.jp/jnlpdf.php?cdjournal=jjhg1948&cdvol=23&noissue=4&startpage=359&lang=ja&from=jnltoc
水力開発=利用の歴史地理 ジャーナルアーカイイブより 人文地理 23(4), 1-36, 1971-08

この論文では、奈良盆地を対象として、水力開発のありようが時代とともに地域像をどう変えていったかが明らかにされています。 そして、論文の結びを引用してみます。

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本論文が扱った水力電気事業は,たまたまこの水路式発電段階で終りを告げている。それ故,この模式的な地域像の追跡も,以上の考察を最後に筆を擱くべきかも知れない。しかしさらに一歩を進め,水路式発電ののちに到来することとなったダム式発電段階における地域像についても,あわせてふれておこうと思う。
ダム式発電の創始によって,まず山間部にもたらされた大きな変化は,水路式発電時代には未だ隆昌であった水車の急速な衰退である。その経遏の一つはダムによって水没する村々と運命を共にして湖底に消え去るという例であり,他の一つは,発電量の増加にともない,山間部により広汎に普及するに至った電力による打撃である。もちろん,後者の経過には,蒸気機関等の近代的動力機関の滲透も,あわせて考慮されるべきであろう。
他方,ダム式発電時代の到来は,平地部にも大きな変化をもたらした。すなわち,ダム式発電による発電量の増加は,火力発電の充実・発展ともども,平地部の全域の電化を完了した。加えて,電力以外の近代的動力機関も充填的に普及したのが,平地部の姿である。かくして在来の水車は,まさに時代遅れの存在となって絶滅の方向を辿ってゆく。もしかりに,平地部に,水車の残存事例が認められたとしても,それはもはや水車所有主の執着などという,余程特殊な事情によるものと理解せざるをえないのである。
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この論文から40年の時をへて、「余程特殊な事情」は起こったと思います。地の理と科学技術の融合、エクセレント・スモール、そういった価値観の転換が求められているのではないでしょうか。

2011年5月22日日曜日

地盤への関心

 NHKの朝の番組で、地盤の液状化について取り上げていました。コメンテーターは平朝彦先生でした。構造地質学の大家でおられるので、地震のメカニズムについてコメントしていただいた方がよかったのでは、、TBSの番組でも浦安の液状化につて取り上げるようです。やはり、首都圏でおこるとマスコミの取り上げ方もちがってきますねえ

2011年5月20日金曜日

今日から現場

 結構久しぶりの山歩き現場です。震災以降、1)直接的震災対応、2)震災に触発された点検業務、3)このほか通常の業務に分かれている感じですが、いまは、2)と3)の間くらいでしょうか。植生と表層崩壊の関係を考えるような現場なので、楽しみですが、明日は雷雨の予報、、雨男、、、

2011年5月19日木曜日

砂防堰堤で発電

 砂防ダムで発電できないだろうか、、計画停電中に考えていたことをやっている方がいました。10mの砂防ダムで16世帯の電力供給が見込めるのだそうです。土砂や落葉の除去など、技術的な課題はまだまだありそうですが、面白い案だと思います。

2011年5月18日水曜日

砂防学会

 今日から砂防学会が始まります。学会発表のタイトルをみると、東日本大震災の内容はこれといってありません。まだ調査は間に合っていないでしょうが、今回の地震で、かなり地盤が緩んだと思います。地震や津波で助かったのに、土砂災害で、、、ということは避けなければなりません。と思うのですが、システムの紹介が主で、現場をどうみるか、過去の災害実態に関する内容が、意外と少ないような気がします。

2011年5月16日月曜日

住宅選びは地盤

 今日のニュースで「震災後、住宅選びは「地盤」、液状化のない「武蔵野」が人気、という記事がありました。もとはどんな土地だったか」を気にする人が増えているんだとか。

 http://www.j-cast.com/2011/05/15095117.html
 2011年3月11日の東日本大震災から、まもなく2か月。震災を機に、住宅選びの着眼点は大きく変わったようだ。ある大手不動産の関係者は「住宅の耐震性はもちろんだが、もとはどんな土地だったか、気にする人が増えた」という。内陸部でも、むかし沼や田んぼであっては地震が起こった際に液状化現象を引き起こす可能性が高い。
 
 防災技術者としては好ましい傾向です。ただ、古地図だけでは判断できない部分もあり、また、意外と簡便な対策工で少々の危険は回避することができます。危険か、安全でないか、住めるか、住めないかの二元論に陥ることなく、地形・地盤の成り立ちを知って、理にかなった住まいにすることが大切になってきます。その良きアドバイザーになりたい。

2011年5月15日日曜日

備え

これは箱根の砂防施設で土石流の導流堤です。昭和28年に約80万m3にも達する土石流により大変な被害が出たのだそうです。高さは最大で10mの施設もあります。多分これから浜岡原発の砂丘にも、このような防潮堤が造成されるかも知れませんが、、山の中に突然現れるとびっくりしますね。

2011年5月14日土曜日

巨大床地図

ひとこと。面白い!!地図好きにはたまりません。

巨大床地図、35.2m×8.2m、江戸間186帖の巨大サイズ。縮尺1:50,000。同サイズの地形図約1000枚分。2010年4月18日研究所一般公開(つくば市天王台3-1)でご覧いただけます VT:

2011年5月13日金曜日

原発と崩壊跡地 -武田先生のブログから -

武田先生のブログに、いま心配すべきはすでに破壊されてしまった福島原発よりも、他の原発であると述べられています。

科学者の日記110513  3号機の爆発と原発問題
http://takedanet.com/2011/05/1105133_d590.html

確かにマスコミは毎日福島原発を報道しますし、いまだ放射性物質は出続けているわけですから、注目しなければなりません。しかし、他の原発は地震やヒューマンエラーもふくめ、そして安全か危険かも含め、あらゆる可能性があるわけです。

よく、豪雨の後に崩れた斜面に一点豪華な対策工が施工されますが、実は今後危険なのは、崩れるべき土砂を持ってしまっている崖です。若干これと共通する部分があるなあと感じたのでした。

2011年5月12日木曜日

記憶のかなたに

 やっと砂防学会の準備が終えました。なにか3月11日以前の出来事は、もう10年以上前の出来事のような気がします。私が発表する豪雨災害の雨量は昭和47年以降の出来事で、”記録的”なのですが、なにせ1000年に一度のM9.0の迫力にはちょっとかないません。それでも裏の沢、崖といった、等身大の防災が大切なことですので、気を取り直したいところです。

2011年5月11日水曜日

あらためて防災の難しさを思う

 東海地震は地震発生確率が突出して高い。これが浜岡原子力発電所の運転を停止する直接的な理由でした。確かにそれはそのとおりです。一方で、1995年の阪神・淡路大震災以降、いわゆる”目立たないリニアメント”を震源とする内陸直下型地震が多発しました。私は、逆に”シャープで目立つ活断層地形”を判読し、中~大縮尺の地形図に表現するという仕事をしていたので、”ええっ!!そこか”という思いを繰り返してきました。そして、プレート境界の巨大地震としては、「東海・東南海・南海」の連動に注目してきました。そしたら、連動した巨大地震として「東北地方太平洋沖」が発生しました。地形・地質、地震、防災に関わる専門家でも”ええっ、そっちかいな”と思った人は少なくなかったのではないでしょうか。
 そういえば、会社の上司が、いわき市の内陸地震の断層及び斜面崩壊の災害調査に行ってきました。そのうちの湯ノ山断層は、東京電力の調査で、最終間氷期以降の地層が変位していないし、破砕帯も固結しているとして、安全側に評価していました。それは地質学的には妥当な解釈ですが、今回の地震で正断層としての変位地形が、かなり明瞭に露出していたのだそうです。
 活断層というのは、結果としての存在、すなわち上部地殻のストレスの通り道・はけ口となった結果として形成される。そして、その根本はプレートの運動ですから、刻々と変わる状況を見極めながら、三次元的なものの考え方をしなければいけないということがわかってきました。”とりあえず30年以内に○%”という視点じゃあ、自然の都合にあわないよ、、と太平洋プレートからの警告だったのでしょうか。
 http://www.nsc.go.jp/shinsa/shidai/touden_fukushima/3/siryo3.pdf 

2011年5月10日火曜日

震災を語る - 1999神戸新聞 故藤田和夫先生の記事 -

自然観
研究の第一人者である藤田さんは、六甲周辺をはじめとする近畿の断層帯が現在も地殻変動の最中にあるとして警告を発してきた。しかし、兵庫県南部地震の発生まで「近畿は地震が少ない」という誤った思い込みが、行政や建設関係者にまで広がっていたが危機感にはつながらなかった。その後、「日本列島砂山論」(共著)などの著書でも、六甲山にかかる東西の圧縮の力で断層ができ、本来固いはずの花崗(こう)岩の岩盤が砂山のようにぼろぼろになっていることを指摘した。神戸市でも土木の担当職員を対象に研修会を何度も開き、活断層について話した。勉強している若い技術者は理解していただろう。トップは土石流には敏感だったが、地震には関心が向

防災への提言は
防災は貯蓄だということ。六甲にトンネルを通して淀川の水を運んでいるが、断層で切れたら供給が止まる。年に一つでも小学校の地下に貯水池を造っていくなど毎年の蓄積が大切だ。活断層の分布を知ることは大事だが、そこだけ対策を行えばいいのではない .活断層は地震環境を示す最もはっきりした指標であり、それを取り巻く地盤、建築構造に気配りすることが大切なのだ
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一部を抜粋して紹介しました。首都圏にまでこの提言は届いていなかった。逆に、釜石市など津波の防災教育が進んでいたところでは、知識と現場での判断力が「防災への貯蓄」としてたまっていたのだろうと思います。この、防災への貯蔵庫がどこにあるのか、鍵のあけ方を多くの人に知ってもらうにはどうすれよいか、専門家の有りよう(私たち技術者も含めて)問われているような気がします。

2011年5月9日月曜日

どうでもいい話ですが

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110511-00000602-san-soci
未婚率が高いことを”内閣府”が危惧して、とのこと。国が調査することかいな、、と思うのですが、確かに、いろんな意味で”生産に対するモチベーション”が下がっているのは気になります。一軒家にすめないし、家庭ももたないとなれば”防災”が必要なのか、、、、、、

2011年5月8日日曜日

すべてはゲストのために

Mrサンデーで、東京ディズニーリゾートの2011.3.11のドキュメントが放送されました。なんと年間180回もの震度6を想定した防災訓練をしており、お客さんがパニックにならない、少しでもあんしんさせるために、使えるものは全て使う、マニュアルにはないことを進んで考える機転に感動しました。共通する意識は「すべてはゲストのために」、指揮命令系統も実にスピーディでシンプル。素晴らしいです。

2011年5月7日土曜日

地震では壊れていない

 NHKスペシャルで津波の映像をみました。画像は仙石平野で、地震発生後から約1時間後にどす黒い津波に襲われた地域です。上の写真は、海岸線から1km程度、下の写真は2.5km程度です。津波のあまりの迫力に圧倒されがちですが、家は原型をとどめていて、目立ったクラックは見受けられませんでした。中はどうかわかりませんが、地震動ではあまり損傷を受けなかったのだと思います。丘陵地の宅地破壊でもそうですが、家は大丈夫なんです。耐震化すべき場所はどこか、そしてそもそも安全な場所はどこかを最優先すべきであることがわかってきます

2011年5月6日金曜日

第1次産業の基盤

 当然のことながら津波は”海水”ですので、農地の塩害が懸念されます。とてつもない面積です。地盤も沈下しているので早々に水は引かないでしょう。静岡大学の新妻先生は、次のように述べられていました。

新妻地質学研究所速報1 -停電中に考えた地震と復興ー
津波に洗われた平地は早急に除塩し,稲作のための大規模田圃を建造して,国際価格に対応できる大規模高効率の稲作を開始する農耕組織を設立する.今回のような規模の津波は数百年は来ないので,これまでの津波に対応できる6m程度の防潮堤を改修し,漁村・農村の定常生活は作業に便利な平地で行う.現在の避難生活から移る仮設住宅を高台に建設し,平常生活に戻った時には避難民の別荘とし,将来起こる今回規模以上の大津波に備える.同時に今回の教訓を子々孫々まで伝える.別荘地建設のための高所から削り取った土砂は,今回津波に洗われ,水没している平野部の改修に使用する.

2011年5月5日木曜日

仙台市緑ヶ丘4丁目

仙台市緑ヶ丘4丁目の盛土造成地の宅地破壊については、太田さんのブログでも紹介されています。


太田さんのブログの写真のうち右下の宅地が、本ブログの左側の写真になります。現在地盤傾斜計が設置されていました。この宅地の反対側にもテンションクラックが連続しています。まさに切盛境界があぶりだされた格好です。中央の写真の奥が右側の写真になります。地すべりによって宅地が破壊される、典型的な滑落崖頭部のテンションクラックです。

2011年5月4日水曜日

景色のいい宅地は、、

 GWは災害の現場に行ってきたので、このブログにも少し連載します。
 宮城県の白石市に出かけました。新幹線の駅名が「白石蔵王」あるように、火山緩斜面に雪を頂く蔵王の雄姿が美しい街です。丘に登れば、その姿はさらに美しい、、ということになります。しかし、絶景を望むためには、さえぎるものがない→開けている→崖っぷちか浅い凹地(谷埋め盛土)というパターンは結構あるものです。下の写真は、崖っぷちであり、浅い凹地をならした盛土でもあったようです。

2011年5月3日火曜日

「評価」する -把握する- 言葉の意味

 下山先生のブログに、「評価」という言葉について考えるときう記事があります

 『評価』という「言葉」について 考える
 「推定」や「仮定」では、何となく主観的に聞こえ、客観性に乏しく見え、信憑性を疑われそうだ、だから、信憑性がありそうに聞こえる別の言葉で置き換えて言おう、ということのように、私には思えるのです。

 確かに、私が報告書を書くときに”使うな”といわれた言葉のひとつです。自分の考えに自信がないことをあらわにするようなものだと。基本的に自分の眼でみた現象、そこから考えたことは『判断した』、見えないが「判断した結果そうであろう」というときは「推定した」など、、
 似たような言葉に「把握」があります。今村遼平さんの『報告書の書き方』という本に、「把握」は意味が不鮮明なので、他の言葉で置き換えること、という節があります。「認知できる」「計測した」「○○と△△は、XとYの関係で存在することを確認した」など、責任感を伴う言葉を使う、言い換えれば「把握」を使わないで済むような調査をするということです。
 地質調査は露頭や転石など非常に限られた視覚情報のなかから、地球の歴史を考え抜く学問から、「把握」の領域から抜け出せたら一人前だということでしょう。私はまだまだです。

2011年5月2日月曜日

何が起こったか、、、

みんな早く被災地を見ておいたほうがいい。すごい勢いでがれき撤去されているから、もう少ししたら「さら地」だけが残って、何が起きたのかもわからなくなる。何が起きたのか、自分の目で確かめてほしい。研究や支援の口実なんか無くてもいい。日本人の誰もが、この現実を見て子孫に伝える義務がある。

静岡大学の小山真人先生のツイッターより。GWの予定が立ちました。

2011年5月1日日曜日

海底地すべりと津波

 東北地方太平洋沖地震では大規模が津波が発生し、その結果が「東日本大震災」をもたらしました。このたび、独立行政法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)のプレスリリースがGooGleアラートで届きましたたが、海底地すべりの発生が津波の波高に影響を与えたのではないかという点が示唆されていました。

  http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20110428/

 このような科学的成果を学び、自然現象への理解を少しでも深めることが、有事の際”想定外”としてパニックにならず”さもありなん”と思えることが、実は減災につながるのではないかと思っています。